カンボジアに再注目

 ちまたからカンボジアの話題が消えて久しい。さまざまな論議を巻き起こしながら派遣された自衛隊の帰国と同時に、カンボジアは日本人にすっかり忘れ去られてしまつたようだ。しかし、日本の歴史の中で、アジアのこの小さな国がこれほど注目されたことはなかったし、そんな重要なことをこれほど簡単に忘れてしまってよいものかと思う。

 今年三月にカンボジアを訪れた。これで四度目の訪問となる。約一年ぶりにみるプノンペンは人も街も大きく変わっていた。以前は豪華なホテルが1軒あるだけだったのに、今は大通りに沿って真新しいホテルが林立している。冷房がききずぎるほどの部屋には世界中の情報が衛星放送で入つてくる。熱いシャワーを浴びたあとは冷蔵庫の中の冷えた缶ビール。そしてふと思いたったら日本の家族に電話する。こんなことは日本を出発するときには想像もできないことだった。

 一年前はちょうどカンポジア総選挙の直前で市内の道路には後郡に大きくUNTACと黒書した自いランドクルーザーばかりが騒然と走り回っていた。さまざまな国の軍服をきた兵士が街に溢れ、彼らの肩で剥き出しになった小銃がいつ戦闘が始まるかもしれない緊張感を漂わせていた。プノンペンで用意された宿舎は政府の来客用だったが、水道をひねっても赤い水がちょろちょろと出るだけ。ちゃんと使える電話もなかったし、一日の半分以上が停電するため、夜になれは市内は漆黒の聞に包まれた。

 今回は、街を歩くといくつもの新しい発見があった。白いランドクルーザーはすっかり姿を消し、そのかわり真新しい自家用車が目立つ。女性たちの服装が派手になり、肌もつややかに美しくなっているのはもちろんのこと、ネコやイヌも毛並みがよくなり、太ったネズミが道端をはいずりまわっている。夜ともなればすらりと並んだレストランには派手なネオンサインが輝き、街角の屋台では人々が明るい光の下で食事を楽しんでいる。郊外に出ればUNTACの置き土産らしいディスコが散在し、そこでは若者たちが酒を飲み激しい音楽に踊り狂っている。

 プノンペンの人と街とをこれほどまでに変えたものはいったい何なのだろう。確かに総選挙は成功したかもしれないが、その効果はこれほどすぐに現れるものだろうか。いくら考えてみても入ってくる情報があまりにも断片的なのでわからないことだらけだ。

 今月末にまたカンポジアへ行く。在留の友人からプノンペンが過去の混乱時代に再び戻ってしまったとの気になる連緒が入っている。あれからどう変わったのか、今のカンポジアを見てきたい。そして、カンポジアがこれからどう変わってゆくのか、その経遇だけでも見つづけていたいものだと思う。

 

塚脇真二(つかわきしんじ)

昭和三十四年福岡県大牟田市生まれ。現在、金沢大学教養部助教授、理学博上。専門は地質学、海洋地質学。昭和五十六年にフィンランド、五十八〜五十九年には英国に滞在。三年前よりアンコール遺跡国際調査に参加。