英国諸島の地史
2006年度前期期末試験問題

問:地域的には英国諸島限定であり,時代という点からみるとジュラ紀までしかできませんでしたが,この講義をとおしてさまざまな地球環境変動について,また生物の進化などについて論じてきました.大洋の消滅にともなって山脈が形成され潤いのある大地が砂漠へと変化していくこと,海面の上下変動で陸が海となり,また海が陸となってしまうこと,地球史をとおして最低5回の大量絶滅事件が発生していること,これらの絶滅事件をかいくぐって生物が進化してきたこと,進化とは生物の単純な変化ではなく,種が絶滅や交代・拡散を繰り返すことであること,そして砂漠化といった環境の変化・変動に応じて生物がその形態を変え,新たな環境に適応し,全地球上に拡散することで現在の生態系が成立したこと,などです.その現在の生態系の頂点に立っているのが人類,すなわち我々ヒトということになります.では,期末定期試験の時間を使い,人類がどのようにして誕生し,どのような変化をへて,現在の状態に至ったのかをゆっくりと考えてみてください.

 現在の人類にとっての直接の祖先というべき種は,アフリカ東部(現在のタンザニア付近)で今から約400〜500万年前に誕生したということがほぼ定説となっています.アフリカ東部には大地溝帯(リフトバレー)があり,ここでは大陸が徐々に裂けつつあることが知られています.つまり,人類誕生の地は,かつてはおそらく緑豊かな森林だったものの,地殻変動によって大地が裂け火山活動が活発化するという大きな環境変動を被った土地だったということになります.そして,ここでヒトは種の断絶や交代を繰り返しながら,徐々に進化するとともに世界各地へと拡散し,現在のヒト(ホモ・サピエンス)は約4万年ほど前に誕生したと考えられています.

 人類が他の哺乳類,とくにチンパンジーやゴリラなどの霊長類と決定的に異なる点は,常時直立歩行するということです.常時発情可能であるということもヒトが他の霊長類(ただしピグミーチンパンジーをのぞく)と異なる点です.また,人類にきわめて近い哺乳類である霊長類には,その顔つきや骨格などに他の哺乳類(イヌやライオンなど)とは大きく異なる点が多々認められ,ヒトではこれらの違いがさらに顕著になっています.鏡で見る自分の顔と身近にいるイヌやネコとを比べて考えてみてください.このような点もヒトを哺乳類の中で位置づけるには重要な点だといえます.脳容量が巨大であることも違いとしてよく指摘されるものです.この他に講義でも指摘しましたが,ヒトが他の哺乳類と異なる点としては

  1. 哺乳類は体重が小さいもの(ネズミなど)ほど短命であり大きいもの(ゾウなど)ほど長命である.ヒト程度の体重の動物は一般に約20年の寿命であるにもかかわらず,ヒトの平均寿命は60〜80年ときわめて長く,これは医学の進歩とは無関係のものである.
  2. ヒト程度の大きさの哺乳類であれば生後数年で性的に成熟してしまうが,ヒトの場合は10年以上が成熟に必要となる.
  3. 一般の哺乳類は生殖が不可能な年齢となるとその半年〜1年後後には生命活動を閉じてしまうが,ヒトの場合にはその後さらに数十年を生きることがふつうである.

 などがあげられます.このようにヒトが他の哺乳類,中でも霊長類と異なるのはどのような原因によるものでしょうか?ヒトはなぜ直立歩行するようになったのでしょう?なぜ脳が巨大化してしまったのでしょうか?それなりの理由があるはずです.これまでの講義をとおして考えてきたように,生物の進化,とくに新しいタイプの生物の出現には,生物自身の変化や諸機能の発達ももちろんありますが,自然環境の変化が大きな要因となっているといえます.改めて問うことにしましょう.なぜヒトは二本の足で立ち上がったのでしょうか?ヒトに代表される霊長類の顔立ちはなぜ他の哺乳類と異なるのでしょう?  ヒトの他の哺乳類には見られない上述の特徴をよく考えたうえで,ヒトが現在の姿になった理由について考察し,解答用紙に詳述してください.