地質学概論
(2004年度後期開講:レポート課題)

課題1 「犀川河床に不整合を探せ!」 (10月12日)

 岩石は堆積岩,火成岩*,および変成岩*に大きく区分される.これらの中で,「堆積岩(たいせき‐がん)」は,堆積物が続成作用*により固結形成された岩石であり,種々の粒度の砕屑物*,生物の遺骸(化石はその一例),化学的沈殿物(岩塩など),それらの混合物を含み,地層の形をとって存在する.

 「整合(せいごう)」は地層間の関係を表す用語で,あい重なる二つの地層間に著しい堆積間隙がなく,両者が時間的にほぼ連続的に堆積している場合をいう.一方,「不整合(ふせいごう)」とは,上下に重なったふたつの地層の形成時期の間に大きな時間間隔があることをいい,一般にはある地層が堆積後隆起し,陸上で風化・削剥作用を受け,その浸食面上に新期の地層が堆積したときの両者の関係のことをさすが,海底での浸食作用や無堆積状態の長期継続なども考えられうることから古い地層が必ずしも陸化する必要はないともいえる.

 土木工学的に考えた場合,不整合とは地盤の諸物性が急激に変化する面といえる.たとえば,地震発生時などの地盤の応答がその面をもって変わることが考えられよう.また,地下水などで不整合面上に粘土鉱物が生成し,その粘土層が地辷りの滑り面となることも多い.整合と不整合は地質学的に重要であるばかりではなく,土木工学的にもまた看過できない存在といえる.

 第一回目の実習を行う金沢市大桑町の犀川中流域には「中新統*犀川層(さいかわ-そう)」および「下部更新統*大桑層(おんま-そう)」が分布する.微化石層位学*的検討結果から,犀川層の堆積年代は今から約1,100年前,そして大桑層基底部は同じく約170万年前と推定されている.このように,ふたつの地層の間には約900万年間の時間間隙が存在し,すなわち両者は典型的な不整合関係にあることになる.そこで今日の実習テーマは「犀川河床に不整合を探せ!」である.

 犀川にかかる大桑貝殻橋(おんま-かいがら-ばし)やや上流の河床に露出するのが典型的な大桑層下部である.青灰色あるいは暗灰色の砂質泥岩あるいは泥質砂岩からなり,黒色を呈する植物遺骸が破片状に散在あるいは層となって挟在するのを特徴とする.一方の犀川層は同橋から約80m上流付近の河床にその典型が露出する(具体的な場所は現地で指示する).淡灰色あるいは灰白色の細粒〜中粒凝灰質*砂岩を主体とし,褐色〜黒色の炭化植物破片や白色の貝化石などがごくふつうに産出するほか,石灰質ノジュール*も散見される.

 この両層の不整合面を制限時間内に見つけ出し,別紙にスケッチ(不整合が存在するあたりの河床全体ならびに不整合面の拡大」,および文章での記載で示したうえで,午前11時45分までにその別紙を提出すること.文章での記載にあたっては犀川層の岩相ならびに大桑層の岩相,および不整合の産状を正確に記載したうえで,両層の不整合面としてそこを認定した根拠を詳述すること.

 


課題2 「大桑層に凝灰岩を探せ!」 (10月19日)

 凝灰岩(ぎょうかい-がん:英語では「tuff」)は堆積岩の一種で火砕岩とも呼ばれ,火山灰・火山砂・火山礫などの火山噴出物が、水中または地表に降下して集積・凝結してできた灰白または灰黒色などを呈する岩石である.加工しやすいため建築や土木の石材に用いられることが多い.たとえば栃木県に分布する大谷石*(おおや-いし)は,新第三系大谷層の軽石凝灰岩の石材名であり,200m以上の厚さがあり,100km2以上の面積に分布することが知られ,年に数十万トンの生産量がある.また,鹿児島県下に広く分布する通称姶良凝灰岩類(俗称シラス*)は,今から約2万4千年前に大噴火した姶良カルデラ(現在の鹿児島湾北部)の火砕流堆積物を主体とし,弱固結〜未固結で透水性がきわめて良好であるため,とくに梅雨や台風の時期には地辷りや崖崩れなどの災害が発生しやすいことが知られる.「シラス台地」という呼び名は小中学校の社会の時間に聞いたことがあるだろう.

 火山の噴火様式*にはさまざまなものがあるが,地層として保存される,すなわち凝灰岩となるだけの量の火山灰などが一時に噴出するのは,一般に大規模火砕流噴火と呼ばれる噴火様式であり,このような噴火が全国さまざまな火山で過去に発生したことが知られる.白山火山もその例外ではない.それらの中で最大といえるものは,上述の姶良カルデラの噴火(噴出推定量が約600km3)や阿蘇火山の約8万年前の噴火(同約1,000km3)などである.1,000km3の火山灰とは,面積約4,200km2の石川県が厚さ約240mの火山灰に被われる量であることを考えるとその膨大さが理解できよう.このような噴火様式のもとに噴出した火山灰は風にのって遠くまで運ばれる.とくに日本の西に位置する九州の諸火山からの火山灰は日本全土を広く被うように海底や陸上をとわず堆積していることがおおい.たとえば上述の阿蘇火山の火山灰は噴出源から遠い北海道や日本海中央部でも10cm以上の厚さがある.

 ひとつひとつの火山灰層にはそれぞれ特有の性質(地層としての厚さ,構成粒子の大きさ,色彩,火山ガラス*の屈折率や化学組成,斑晶*鉱物組成,など)があり,これを利用して地層中のある火山灰層を他の火山灰層から区別することが可能となる.そして,このように特定された火山灰層は,火山灰が短時間に広い範囲に降下し堆積したことを考えれば,広い範囲にわたって同じ時間面であることを示す地質学上の重要な指示者となる.このような火山灰層(=凝灰岩)は金沢市内に分布する新第三系にも多数が見つかっており,中でも下部更新統大桑層には10枚以上の凝灰岩の挟在が知られ,異なる地域間での地層の対比に重要な役割を果たしている.

 第二回目となる実習のテーマは「大桑層に凝灰岩を探せ!」とする.金沢市大桑町の犀川中流域に分布する大桑層下部〜中部には,これまでの調査で7枚の凝灰岩層が発見されている.厚さは比較的厚いもの(約50cm)から薄いもの(約1cm)まで,粒度は粗粒(グラニュー糖程度)から極細粒(カタクリ粉程度)まで,固結度は強固結(かちかち)から弱固結(釘を手で刺せる程度)までといろいろであり,色彩も純白や淡いピンク色,青灰色,淡い褐色などとさまざまであるが,いずれの凝灰岩も青灰色あるいは暗灰色を呈する大桑層下部〜中部の細粒砂岩や泥質砂岩からは明瞭に区別される.

 そこで今回の実習では,犀川層と大桑層下部との不整合からボート小屋付近までの犀川河床に分布する大桑層下部〜中部から3枚の凝灰岩層を探し出し,それぞれの凝灰岩層のスケッチをとるとともにどのような特徴があるか,凝灰岩層上下の地層の特徴と合わせて記載してもらいたい.なお,スケッチには長さ10cmのスケールを入れて凝灰岩層の厚さがわかるようにすること.また,凝灰岩の場所がわかるようにする(たとえば貝殻橋の下流約200m付近の左岸,などと具体的に書く)こと.

 


課題3 「大桑層に貝化石を探せ!」(10月26日)

 「化石(かせき)」とは,地質時代の生命の記録の総称であり,生物の遺骸あるいは遺骸の一部(体化石),および足あと、這いあと,巣穴、糞などの生活の痕跡(生痕化石)を指す.一般に骨や殻などの硬い部分が残り,石化することが多いが,石化していなくても化石と呼ぶ(以上,「広辞苑」に一部加筆).石川県では南部に分布する中生界手取層群(てとり-そうぐん)の恐竜化石や金沢市を中心に分布する下部更新統大桑層の貝化石がとくに有名である.貝化石が層を成しているものを貝化石層と呼ぶ.

 過去の生命の記録を探り,その生命体の諸特徴から過去の自然環境や環境条件を知るうえで,化石は地質学上きわめて重要な存在といえる(示相化石*).また,生物の種類や形状などが時代とともに変化してきたことを利用して,その化石を産出する地層の地質時代を知る手掛かりともなる(示準化石*).一方,土木工学的に化石の重要性はあまり認識されていない.しかし,後述する大桑層のように,新しい時代の地層に挟在する貝化石層は多孔質できわめて透水性のよいものであり,加えてこれらの貝化石が真水で容易に劣化し溶解することを考えると,貝化石層は地辷りの滑り面としてふるまいうる危険性が高い.また,地下水の主要な流路となる可能性もある.

 下部更新統(今から約180万年前から約80万年前にかけての地層)大桑層は,この時代の寒流系の海にすむ貝の化石を多産することで世界的に知られた地層である.この地層は下部の暗灰色砂質泥岩〜泥質砂岩,中部の青灰色細粒砂岩,そして上部の黄褐色細粒砂岩に岩相上大きく区分され,それぞれの岩相上の特徴から下部は潟のような閉鎖的な水域の堆積物,中部は外洋に面した浅い海の堆積物,そして上部は砂浜の堆積物とそれぞれ考えられている.すなわち,大桑層の堆積環境は,潟に始まり,海水面の上昇にともなって開けた海へと変化したものの,その後の海面の低下によって砂浜に変わったと判断される.貝化石を多産するのはこれらの中では中部となる青灰色細粒砂岩であり,とくに大桑町の犀川河床はこれらの貝化石がいくつもの層を成していることで著名である.そのため数多くの研究者や化石愛好家,そして一般市民が化石採集に訪れるところである.

 そこで第3回目の実習では,金沢市大桑町の犀川河床に分布する大桑層中部の貝化石と貝化石層の観察を実施する.今回のテーマは「大桑層に貝化石を探せ!」である.同河床での同層中部は大桑貝殻橋直下からその下流にかけて広範囲に分布している.制限時間内にこの範囲内で,(1)貝化石層をひとつ見つけ出し,その産状をスケッチと記載とで示すこと,そして,(2)大桑層中部産の代表的な貝化石(本紙下部および裏面参照)のなかから4種類を採集し,ビニール袋に氏名を書いた紙とともに化石を入れて提出すること(化石は後日返却する).

  1. ビノスガイ(×4/5)
  2. オンマイシカゲガイ(×4/5)
  3. ヨコヤマホタテガイ(×4/5)
  4. イタヤガイ(×4/5)
  5. アラスジサラガイ(×2/3)
  6. オンマセイタカシラトリガイ(×2/3)
  7. ナガサルボウ(表・裏:×1)
  8. オンマサルボウ(×1)
  9. カガミガイ(×4/5)
  10. キリガイダマシ類(×1)

 


課題4 「犀川層・大桑層の地質柱状図の作成」(11月9日)

 「地質柱状図(ちしつ・ちゅうじょうず)」とは,ある地域の地層の重なり(層序)や地層の厚さ(層厚),地層個々の特徴(岩相),そして含まれる化石などのさまざまな情報を上ほど新しい地層となるように柱状に示した図であり略して単に「柱状図」ともいう.地質柱状図には,調査ルートごとあるいは調査した露頭ごとに描かれる「各個柱状図」や「露頭柱状図」,各個柱状図や露頭柱状図をある一定範囲の地域ごとにまとめて示した「総合柱状図」,そしてある地域の層序や岩相などをまとめて模式的に示した「総合模式柱状図」がある.これらの中でも各個柱状図や露頭柱状図は,地質調査時に得られた情報をそのまま記載・記述したものであることから,もっとも基本的な地質柱状図であるといえ,複数の各個柱状図に示された地層などの対比結果などにもとづいて地質図や地質断面図などは作成される.

 地質柱状図に描かれる地層の厚さ(柱状図の高さ)は,それぞれの地層の厚さに比例して描かれる.つまり地層が傾斜している場合にも,地質柱状図ではそれぞれの地層はそれらの地層の真の厚さに直して描かれることになる.これは土木工学でいうボーリング柱状図(坑井柱状図)が,ボーリングコアがそのまま柱状に描かれる,つまり地層の真の厚さとは無関係に試料として得られた長さとして描かれるのとは異なる.

 地質柱状図では,それぞれの地層の岩相(砂岩や泥岩,など)は一般に柱状図内に模様として描かれることが多い.そして,岩相の詳細や堆積構造,化石の産出状況,特殊な鉱物の有無,などの詳細な情報はその横に補足して記載される.また,地層の硬軟は柱状図の右端あるいは左端に凹凸をつけることで示すこともある.なお,地質柱状図は化石が産出した層準を示したり,岩石や堆積物試料を採集した層準を示したりするのにも用いられる.

 本講義でこれまで3回にわたって実施してきた野外実習で,「不整合」,「凝灰岩」,そして「化石」について学んできた.不整合や凝灰岩を捜すときにはそれぞれの地層の岩相も同時に観察してきたはずだ.そこで,第4回目の実習では,金沢市大桑町の犀川河床に分布する地層について,地質柱状図の作成を実施する.犀川層のある層準(現地で指定する)から不整合面をへて大桑層の中部にいたる層準(同,現地で指定する)にかけての地質柱状図を制限時間内に作成せよ.柱状図の基準面は犀川層と大桑層との不整合面(レポート用紙中に記入済み)とする.

 実習地に分布する犀川層ならびに大桑層はほぼ北へ向かって10度から20度傾斜しているが,全層準にわたって北へ15度一定に傾斜しているものとして作図すること.15度の傾斜とはすなわち,水平な地表面で1メートルの幅がある地層の真の厚さは約26センチということになる.水平距離の計測は歩測法で行ってかまわない.地層が観察されない(露出しない)層準があるときには,該当する厚さを空白にしておき推定される厚さを記入すること.なお,本紙裏面に各個柱状図の例(辰口町のあるルートで作成されたもの)を示すので参照されたい.また,地質柱状図に用いる模様や化石などの記号は本紙裏の凡例を用いること.