金沢市北東部清水谷地域(大桑層・高窪層)
2002年11月20日(水):担当 加藤晃義

 朝から加藤晃義が担当する金沢市北東部のフィ−ルドを見に行った.昨日につづいて好天に恵まれる.国道304号を竹又付近で左折し,高速道路の橋下をくぐってしばらく走ったたところで車をとめた.場所は清水谷のやや北方になる.駐車した目の前に最初の露頭があった.


 この露頭には灰白色の中粒凝灰岩が露出していた.小さな軽石の粒を含んでいて全体に軟らかい.

 この凝灰岩のすぐ上には固い泥質凝灰岩があった.これらの特徴は高窪層最上位の上涌波凝灰岩(通称:KWT)のものだ.

 この露頭の裏手の崖には青灰色の泥質砂岩や砂質泥岩が露出していた.おおまかながらも層理面が確認できる.その層理面のいくつかを形成しているのはきわめて薄い白色の凝灰岩だ.層厚が1センチにも満たないものがある.吉岡が命名したOB凝灰岩シリーズだろうか.他人のフィ−ルドの気楽さで,細田が凝灰岩探しにけんめいになっていた.

 最初の露頭から林道に沿って沢の奥へ歩いていく.右手の水路の壁面に凝灰岩らしいものが見つかった.叩いてみると白色軽石を多量に含む粗粒凝灰岩だった.これらの軽石には角張ったものが多い.火山岩の岩片らしいものも含まれている.西川の大桑層下部礫岩層(OLG)あるいは吉岡の下涌波凝灰岩(SWT)に間違いない.

 SWTのずっと上にも凝灰岩らしいものが見えていた.それを横へと追いかけて叩いてみると,そこに現れたのは白色細粒でとても固い凝灰岩だった.

 基底部にこそ白色軽石を含み葉理のみられる粗粒凝灰岩があるものの,それより上になると全体に均質な白色細粒凝灰岩となる.これらの特徴は西川のOL2凝灰岩とすべて一致する.夏の植生のためにこの凝灰岩を見落としていた加藤がデータを急いでとりはじめる.

 ほんとうに暖かないい天気だった.OL2凝灰岩を見たあとで車を置いたところへいったん引き返した.

 そこから左手の沢へ入っていった.植林作業用の小径をまずのぼっていく.

 小径の途中に中粒の凝灰岩があった.全体にやわらかく直上には白色の泥質凝灰岩も見つかった.この露頭の凝灰岩には軽石がほとんど含まれていないが,これらの特徴は上涌波凝灰岩のものだ.しかし,この露頭では凝灰岩がほぼ水平なのに対し,車を置いたところにあった露頭では同じ凝灰岩が20度ほど傾斜していた.不思議に思って地形を調べてみたところ,前に見た凝灰岩はどうやら地辷りで滑落してきたもののようだった.

 やってきた小径を車へ引き返す.途中の紅葉がきれいだった.

 車で大きく移動して今泉の住宅地へ車を置いた.そこから農道を歩いて下っていく途中,道沿いに白色凝灰岩があるのを細田が見つけた.脆弱な中粒の凝灰岩で白色軽石を含んでいる.直上に固い泥質凝灰岩は見つからないが,これも上涌波凝灰岩と判断してさしつかえないだろう.

 加藤はこの露頭も見落としていたらしい.彼がデータを取り終えるのを待ってから農道をさらに下っていく.

 農道が沢とほぼ同じ高さにまで下りきったところに目指す露頭があった.ここには灰白色で塊状の砂質泥岩が露出していた.

 この露頭を見ているとき,沢の向こう側に凝灰岩らしいものがあるのを細田が発見した.

 冷たい水に足を浸しながら対岸へ渡ってみると,その崖にあったのは農道の途中でみたものと同じ中粒凝灰岩だった.

 この凝灰岩のすぐ上には固い紫白色の泥岩がある.凝灰岩と泥岩との境界面にはコンボルート層理が発達している.上涌波凝灰岩にちがいない.

 沢の上流側にはちょっとした滝があった.手頃な傾斜につられてか細田と星野が意味もなく登っていく.

 この滝を構成しているのは青灰色の泥質岩だった.水の冷たさにもだんだんと慣れてくる.

 滝の上流側は人工的な水路になっていたが左岸側は露頭そのものだった.そこに新たな凝灰岩が見つかった.泥質砂岩の上にはっきりとした境界でこの黄褐色の粗粒凝灰岩はある.基底部には小さな礫が含まれている.

 上位に向かうにつれて凝灰岩は白色中粒に変わっていった.白色の微細な軽石が含まれている.しかし全体をとおしてそれほど固くはない.これは下涌波凝灰岩にまちがいない.

 凝灰岩が見つかったところから先にも露頭はずっと続いていた.しかし日没の早いこの季節とあって先を急ぐことにした.農道には落ち葉がびっしりと降り積もっていた.

 3番目のルートは旧土子原小学校から農道をずっと下ったところにあった.

 ここにも白色中粒の凝灰岩が露出していた.白色軽石を含んでいて脆弱だ.その直上には固い泥岩層もある.やはり上涌波凝灰岩だろう.しかしこの露頭では傾斜がやけに急だった.地形図をみるとこの露頭があるところは地辷り地形の末端のように見える.

 この凝灰岩が見つかったのは標高にして約150メートルほどのところだ.これまでに見てきた同じ上涌波凝灰岩の分布高度は70メートル程度だったし,いずれの露頭でも凝灰岩はほぼ水平だった.この大きな高度差が生じた理由は今のところわからない.凝灰岩露頭の対面となるところには青灰色の泥質砂岩がずっと露出していた.

 最後のルートへと向かう途中の林道で車をちょっと止めた.曲子原から松根へ抜ける途中になる.加藤によるとここにも凝灰岩の薄層があるという.4人で探してみたがハンマーの先から現れるのは青灰色の泥質岩ばかりだった.何かを見誤っていたらしい.

 そして本日最後のルートとなる竹又に到着した.11月7日に細田と歩いたところからほど近い.高速道路の橋脚付近に車を置いて道路をまず歩く.左手には底が知れないほど深い沢がある.この沢の奥に目指す露頭があるという.激しい水音だけが沢のほうから響いてくる.道路から乾き上がった水田をわたり,それから沢へと水を落とす人工の水路に入った.傾斜は40度ほどもあるだろうか.水路の底は水苔で被われていてぬるぬると滑る.しかも水は轟々と流れ落ちている.はるか下にはコンクリートで被われた固そうな壁が見えている.その水路を加藤は両手両足を突っ張りながらそろそろと降りていった.あとで聞いたら陰地の直伝だという.彼に続いて降りたところで見上げてみたら,壁につかまりながら降りてくるふたりの姿があった.
 
 
 水路の果ての高さ2メートルほどのセメント壁を飛び降りて到着した沢の底は全面の露頭だった.塊状で青灰色の泥質砂岩や砂質泥岩ばかりだ.
 

 ここのところ降り続いた雨のせいか沢の水量は多かった.冷たい水に胸まで浸かりながら下流へ向かう.

 深くなったり浅くなったりをくりかえす沢をさらに下流へと向かう.つま先の感覚がだんだんとなくなってくる.
 
 
 沢の壁面に露出する青灰色の泥質岩には二枚貝の印象化石を見ることができた.これがすべる壁面では唯一の手がかりになってくれる.
 

 ところどころで沢の傾斜がきつくなる.あるいは沢がぐっと狭くなる.こんなところはいちがいに深い.水のあるところを飛び越えたりかわしたりしながらさらに下流へ向かう.

 頭上に道路が見えてきたところでようやく目的の露頭に到着した.そこでは青灰色の泥質砂岩に凝灰岩が挟在していた.凝灰岩の厚さは30センチほど.上下の泥質砂岩との境界はきわめてはっきりとしている.約30センチの垂直変位量がある逆断層も見つかった.

 この凝灰岩には不明瞭ながらも平行葉理が観察される.凝灰岩の上半分が白色細粒であるのに対し,下半分は灰白色でやや粗粒になっている.基底部には粗粒の軽石が密集層を作っている.こんな特徴をもっている凝灰岩は清水の宇宙寺凝灰岩,あるいは西川のOM3凝灰岩のほかにはない.上下の泥質砂岩には二枚貝化石や二枚貝の印象化石が散在していた.

 この露頭のやや先では沢が道路の下をくぐるようになる.その入り口は大きくて暗い亀裂状のトンネルになっていた.トンネルの入り口まで細田が降りていく.しかし自力ではもとのところにはい上がれない.残るふたりの助けを借りてようやく上に戻ってきた.「小二又のセメント壁」のリベンジは今回もならなかった.

 やってきた沢をそのまま引き返すことになった.下ってくるときに使うことができた手がかり類が上るときには使えない.すぐ目の前を加藤が胸まで浸かりながら上っていく.

 いちばんの難所をようやく登り終えて振り返ってみたら,ジャグジー風呂状態になった星野の姿があった.

 いちだんと深くなったところに細田ははまりこんだようだ.かえる足になって泳いでいる.しかしすぐに足場を確保して上流へ移動してきた.

 流れ落ちる冷たい水の中をはい上がってくる.ふと目を落としたら泥質砂岩中に白く光る貝化石が目にとまった.

 ここで沢は平坦になった.振り返ると登ってきたばかりの激流が見えた.こんなところをよく登ったものだとわれながら思う.
 

 壁面に露出する大桑層には強い圧縮を被ったような痕跡が認められる.節理が多いし走向・傾斜の変化も著しい.ここにも二枚貝の化石や二枚貝の印象化石があった.

 来るときには飛び降りたセメント壁を登ることができなかったため道路の下を貫く簡易水路をくぐった.

 そして枯れ草が生い茂る急斜面を登ってようやく地表に到達した.乾いた固い道路がやけにうれしい.

 暖かい日差しをあびながら車へ戻る.

 残る1ルートは次回に延期することにして研究室に戻った.すぐに着替えてミーティング.そして暖かい鍋を全員で賞味した.

  • Camera: Casio G.Bros GV-10 and Konica 現場監督WB
  • Lens: Casio Lens 4.6mm f.2.8 and Konica Lens 35mm f.3.5
  • Film: Fujicolour Super 100
  • Scanner: Epson FP-1200WINS