金沢市北東部東原地域(大桑層・高窪層・蔵原層)
2002年11月30日(土):担当 細田洋人

 朝方には激しい雨が降っていた.ちょっと迷ったが「行けるところだけ」という心づもりで予定よりもやや時間を遅らせて大学を出発した.二俣をとおり国道304号線に入る.そして竹又と東原のほぼ中間あたりの路肩に車を止めて,そこから歩いて右手の沢に入った.雨は降り続いていたが朝方よりは小降りになっていた.


 沢に入ってすぐ右手に大きな露頭があった.そこにはやわらかい粗粒砂岩が露出していた.

 同じような粗粒砂岩が農道沿いにずっと露出している.

 やや細粒になる部分もあるが,この粗粒砂岩はきわめて均質だった.茶褐色になった二枚貝の印象化石がみつかる.

 途中で沢の左側を走る舗装された農道に移動した.”トトロ”のように傘をさした細田が前を歩いていく.

 こちら側には粗粒の凝灰岩が露出していた.やや泥っけを帯びていて白色の軽石や礫を含んでいる.上涌波凝灰岩だろうか,あるいは下涌波凝灰岩だろうか,それともまったく別の凝灰岩なのか・・・.

 ここでやってきた道を引き返した.雨はまだ降り続いていた.

 国道に戻って入ったばかりの沢を眺めなおしてみた.沢の左右も突き当たりもいずれも急な斜面になっている.不思議な形だ.この成因を考えながら車へ戻った.

 国道を東へと車で走り”東原運動公園”と書かれた看板のある小径へ入った.すぐのところに大きな露頭がある.やわらかい粗粒の凝灰岩で平行な葉理が発達している.わりと大きな白色軽石が含まれている.この岩相は上涌波凝灰岩に間違いなさそうだ.

 国道に戻って東へ歩いた.いかにも危なそうなため池が右手にある.

 50メートルほど東へ行ったところにも同じ凝灰岩の露頭があった.このあたりでは地層はほぼ水平になっているようだ.雨はやむ気配をみせない.陰地と細田の相合い傘がずっと続く.

 車で国道をちょっと引き返し,その途中で南へ延びる林道に入った.複雑な谷地形の底や縁に沿ってくねくねと走る林道を下っていく.じきに右側には露頭が連続するようになる.その中の比較的大きなひとつに車をとめた.泥質をつよく帯びた凝灰岩だった.上のほうにとても硬い凝灰岩か泥岩かがあるのを陰地が確認してくれた.

 下の方には真っ白くて硬い凝灰岩の薄層が挟在している.そのすぐ左側には生痕で大きく乱された同じ凝灰岩の延長らしいものがある.

 この露頭の左手に連続するところを見てみたら,そこは細粒砂岩に変わっていた.それほど硬くはない.むしろ軟らかいといってもよいほどだ.目で追っていくとさっきの薄層凝灰岩のやや上あたりにくるようだった.

 細粒砂岩の50センチほど下には硬い白色凝灰岩があった.厚さは10センチほどだろう.そのさらに下には白色軽石を含む粗粒凝灰岩もみつかった.

 この露頭から南西にさらに100メートルほど離れたところにも別の凝灰岩が露出していた.雨ですべる露頭面のため上の方にあるこの凝灰岩まで登ることはできなかった.厚さが1メートルほどの礫を含んだ粗粒凝灰岩だと細田がいう.そのさらに上には固い泥質凝灰岩があるらしい.

 そのすぐ近くの露頭では,暗灰色の泥質岩に葉理の発達する細粒凝灰岩が挟在していた.層理面がややうねっているのが特徴的だ.この凝灰岩に対比されそうなものを思いつかない.

 林道沿いにさらに車を走らせ,八幡神社前をとおって”モトランド”のほうへ進んでいく.林道は複雑に曲がりくねっている.しばらく走ったところにあった露頭には白色細粒できわめて硬い凝灰岩があった.30度ほど北西へ傾斜している.この上下の青灰色泥岩には礫が含まれていると細田がいう.植物破片もみつかるらしい.

 雨はまだ降り続いていた.ストロボの光が雨滴に反射する.じゃまになったのか細田が傘を差すのをいつのまにかやめていた.

 車をさらに進めた.モトランドへの入り口手前の露頭には青灰色の泥質岩があった.やけに角張ったノジュールらしいものがたくさんみつかる.

 さらに車を進めて林道がやや上りはじめるところまでやってきた.振り返るとさっきの青灰色泥岩の露頭がみえている.進行方向右手には天然の沢にうまく手を入れて作ったらしい水路があった.

 水路の底は一面の露頭だった.激しい水流が地層を掘り抜いたらしいトンネルからはきだされている.

 この露頭を構成しているのは青灰色の砂岩だった.粗粒といってもいいほどに粒が粗い.白色の小さな軽石が含まれている.どうやらこのあたりで蔵原層の分布地域に入ったようだった.

 すぐ近くの露頭には灰白色で硬い凝灰岩がある.

 掘り抜きトンネルの上流側へまわってみたところ,その壁面には二枚貝の印象化石や直径4センチほどの白色軽石がみえていた.


 雨はときおり小降りになるもののやむ気配を見せない.カメラのバッテリーを交換するため車のハッチバックを開けてみたら,細田のサンプルと陰地の折れたハンマーの柄がトランクルームにころがっていた.

 林道は南西方向にほぼまっすぐにのびていた.粗粒砂岩があった露頭からさらに進んでいくと,同じような砂岩の中に白い貝化石がみつかった.

 そのすぐそばには高さが20メートルはありそうな大きな露頭があった.不明瞭ながらも層理面がみえている.やはり北西へ緩く傾いているようだ.この露頭のもっとも下には軽石を多量に含む粗粒砂岩がある.

 上位に向かうにつれてやや細粒になっていくようだ.そのさらに上は泥質を帯びてくる.このあたりになると二枚貝の印象化石がたくさんみつかる.蔵原層の典型的な岩相といってもいいだろう.

 この露頭のもっとも上には泥岩があるとのことだ.露頭のいちばん下に軽石をあまり含まない粗粒砂岩があることに壁を降りてから気づいた.

 林道をさらに進むと粗粒の凝灰岩がみえる露頭があった.軽石をたくさん含むやわらかい凝灰岩だ.厚さは1メートル以上あるだろう.

 凝灰岩の基底面には複雑な凹凸が観察され,直下には暗い色をした粗粒砂岩がある.これほど特徴のある凝灰岩だが蔵原層からはこれまでに知られていないもののようだ.

 そのさらに先には大きな斜交層理の発達する中粒から粗粒の砂岩が露出していた.地層全体としてはやはり北西方向に緩く傾いているようだ.砂子坂層の岩相のようにもみえるが,これはまだ蔵原層の中だと細田が説明してくれた.さらに南へ進むと御峰層に対比されそうな泥岩が分布するという.

 斜交層理をみたところでやってきた道を引き返すことにした.林道の途中にあった軽石と礫とを含む粗粒砂岩をみておく.

 林道を引き返してその途中にある沢に入ることになった.本日のフィ−ルド最後の露頭になる.枯れ果てた藪をかきわけて沢に入っていくと,目の前に大きな砂防ダムが出現した.

 ダム右岸側の急斜面を登っていく.足元に厚く堆積した濡れた落ち葉がずるずるすべる.木の枝はいい手がかりをあたえてくれる.登り切ったところでダムの上面に飛び移る.

 最後に登ってダムの上に顔を出したところ,ちょうど目の高さに青灰色の泥岩があった.下をみるとこの露頭はダムの上流側に沿ってずっと連続していた.そこでいったん降りて下から順番に露頭をみることにした.

 もっとも下には黄白色をした細粒砂岩があった.みえるところだけでも厚さ1メートルはあるだろう.生痕が発達している.その上には礫岩と呼んでもよいほどに多量の角礫を含む粗粒砂岩がある.

 礫岩は上位に向かうにつれて細粒になって泥岩とも呼べそうな泥質岩に変わっていく.ここには二枚貝の印象化石が散在している.そのさらに上にはダムの上面あたりに露出する青灰色の泥岩がある.「高窪層と蔵原層の境界!」と細田がハンマーで示してくれる.そうなるとこのふたつの層は漸移的な整合関係にあることになる.

 これで本日のフィ−ルドはおしまいにした.急斜面を細田が器用に飛び降りていく.雨は最後まで降り続いていた.

  • Camera: Casio G.Bros GV-10 and Pentax MZ-7
  • Lens: Casio Lens 4.6mm f.2.8 and SMC Pentax-FA zoom 28-80mm f.3.5-5.6
  • Film: Fujicolour Super V 100
  • Scanner: Epson FP-1200WINS