金沢市北東部南千石地域(大桑層・高窪層)
2002年12月3日(火):担当 星野恵一

 朝日がまぶしいほどだったが西空はどんよりと曇っていた.なんとなくいやな予感がしたが予定どおりに大学を出発する.途中の二俣のあたりでぽつぽつと雨が落ちてきたが,そのまま国道304号から同359号へ.昨日と同じルートだ.そして加賀朝日方面へ向かう地方道に入り,南千石の民家群を抜ける細い林道を下った.道ばたの空き地に車を置いて徒歩で沢の入り口へと向かう.林道には落ち葉が一面に堆積していた.


 通りすがりの林道沿いに風化の進んだ地層があった.砂質泥岩のようだ.走向や傾斜などはわからない.植物破片のようなものが混じっているが,現在の植物に由来するものだろう.

 林道が終わるあたりに畑があった.そこをとおりすぎて杉の植林地に入る.

 それから竹が茂る急斜面を降りていく.谷底は比較的近くにみえていた.

 谷底に到着し下流へ向かうとすぐに砂防ダムがあった.左岸側の竹林づたいに降りることにする.

 砂防ダムを降りたところに地層が露出していた.表面は茶褐色に風化していたが,新鮮な部分は青灰色の砂質泥岩だった.やや淡い色の部分が層状にみえる.この部分だけ凝灰分に富んでいるようだ.

 星野がデータをとりはじめた.降りてきた砂防ダムが意外に大きいことにここで気づく.振り返ると下流側には次の砂防ダムがみえていた.

 この小さな砂防ダムを難なくかわしてさらに下流へ向かった.50メートルほど下流へ進んだところに風化の進んだ凝灰岩の露頭があった.黄白色をした中粒の凝灰岩だ.やわらかくて軽石が散在している.しかし大きな転石の可能性も捨てがたい.

 そこから右岸側へあがったところが最初の目的地だった.竹の細枝をかきわけながら到達したその露頭には,軽石を含んだやわらかい白色凝灰岩が露出していた.厚さは2メートル以上はあるようだ.岩相から判断すると上涌波凝灰岩のようにみえる.地辷りで滑落してきたものだろうと星野は言う.この部分の舌状の地形といい斜面側に傾斜した凝灰岩の地質構造といい,彼の判断に間違いないだろう.

 沢まで引き返しちょっと下流へ向かったあたりで陰地が頭上に露頭をみつけた.この露頭の下の部分には青灰色の泥質岩があった.白い軽石が全体に散らばっている.

 露頭の上の部分には凝灰岩が露出していた.先ほど地辷りと判断したばかりの凝灰岩とよく似た脆弱な中粒から粗粒の凝灰岩だった.もっとも上の部分には比較的緻密な細粒凝灰岩がある.これもやはり地辷りで滑落してきた上涌波凝灰岩だと判断した.

 沢を本流へと向かって下っていく.途中の足元に白色細粒の凝灰岩がみつかった.比較的硬い.厚さはわからない.

 この沢が本流と合流するあたりに次の目的地があった.それほど大きな露頭ではないが,白色でわりと硬い凝灰岩が砂質泥岩に挟在している.構成粒子はきわめて細粒だ.厚さはみえるかぎりでは1メートル程度だろう.大桑層下部に挟在するOL2凝灰岩と似た岩相だが,さっきからみてきた上涌波凝灰岩が地辷り性のものだと考えると層位関係があわなくなる.まったく別の凝灰岩の可能性が高そうだ.

 本流を下流に向かってしばらく歩くと大きな砂防ダムにぶつかった.ダムのへりに立つと泥質岩っぽい露頭を見下ろすことができた.

 このダムを右岸側に大きく迂回して降りようとしたところでわりと大きな露頭にでくわした.ここにもさっきみたばかりの白色細粒の凝灰岩が露出している.この凝灰岩の連続性は比較的いいようだ.

 砂防ダムを降りて上から見下ろした露頭を叩いてみた.破断面にはきれいな青灰色をした砂質泥岩が現れた.小さな白色軽石を含んでいる.

 しばらく下流へ歩いたところで3番目の目的地に到着した.上平小学校の直下あたりになるという.遠目にも白い凝灰岩の薄い層が泥質岩に挟在しているのがよくわかる.この凝灰岩を構成する粒子は細粒砂程度の大きさで粒子の淘汰はわりといい.

 この凝灰岩はもっとも厚い部分は10センチほどだが,水平方向へ薄くなりところによっては見えなくなる部分もある.これが星野にとっては大きな謎だったらしい.しかし凝灰岩と上位の砂質泥岩とはあきらかな浸食境界で接していた.砂質泥岩が堆積するときに下の凝灰岩を削剥したためこのような層厚の変化や側方への不連続性が生じたものだろう.この露頭では2つの正断層がみつかった.いずれも北北東−南南西にのびていて南へ急傾斜している.

 このあたりの地層がごくわずかに南側へ傾斜しているのがこの凝灰岩からわかった.星野が走向と傾斜のデータを急いでとりなおす.どうやら間違えていたらしい.

 ここから沢を上流方向へと引き返した.朝方の不安はどこへやらで.南北方向に延びるこの沢には明るい日光が沢の底にまで差し込んでいた.しかし水は冷たい.

 降りてきた支流の合流点をとおりすぎてしばらく行ったら大きな砂防ダムがまたあった.ダム直前の左右の岸には立派な露頭がみえている.右岸側には灰白色で緻密な細粒凝灰岩が露出している.不明瞭ながらも層理面が見えている.ここでもわずかに南に傾斜しているようだ.

 左岸側にも同じような凝灰岩が露出していた.右岸側のものとは岩相がやや異なっていて,左岸側の凝灰岩では層理面がはっきりと見えていた.この違いがなんとなく気になるところだが,左右を何度みくらべても層位は同じだった.

 泥と落ち葉が厚く堆積したダム横の段をよじのぼって上流側に回り,しばらく歩くと右岸に凝灰岩の露頭があった.いちばん下には中粒から粗粒の黄白色凝灰岩が位置している.比較的やわらかくて小さな軽石を含んでいる.厚さは2メートル以上はあるだろう.ここで露頭を切り崩していた陰地が誤ってアマガエルを埋めてしまった.

 その上位には真っ白で緻密な極細粒の凝灰岩がある.厚さは40センチほど.下位の凝灰岩とは漸移関係にあるようだ.そしてこの極細粒凝灰岩の上にはっきりとした境界をもって細粒から中粒で脆弱な凝灰岩があった.この凝灰岩は灰白色をしていて厚さは20センチくらい.そのさらに上位には軽石を含む凝灰質砂質泥岩がある.白色で緻密な凝灰岩以下の層準は上涌波凝灰岩と判断してもよいだろう.周囲の地形やこの凝灰岩の傾斜方向から,この凝灰岩が滑落してきたものでないことは明らかだ.


 沢へ降りてさらに上流へ向かった.正面から差し込んでくる日光がまぶしいほどだった.気温は低いが久しぶりの日光はうれしいものだ.

 沢をしばらくさかのぼったところで大きな砂防ダムにまたでくわした.このダムの側壁にも地層がみえている.白色の軽石を多量に含んだやわらかい白色凝灰岩だ.露頭でみえる部分だけでも厚さは1メートルほどある.その直上には白くて緻密な細粒凝灰岩があり,そのさらに上には青灰色の砂質泥岩が位置している.軽石の多い岩相はやや異なるが,さきほど上涌波凝灰岩と判断した露頭の上流側への延長と考えてよいだろう.

 下位の黄白色凝灰岩に含まれる軽石は層を形成していた.少なくとも3層はある,とは陰地の観察結果.ひとつの層の中での軽石は上方に粗粒化している.

 この砂防ダムでは側壁を登ることができなかったため,ちょっと引き返してびっしりと竹藪の茂る斜面を大きく迂回してダムをかわした.

 明るい日差しが沢の底にずっと降り注いでいた.ダムの上流側では青灰色の砂質泥岩がみつかった.強い日差しのために露頭がややみにくくなるが暖かいにこしたことはない.

 すぐに次の砂防ダムが現れた.これもまた大きなものだったが側壁を簡単に登ることができた.左岸側の側壁を陰地がひとりで登っていく.この側壁には青灰色の砂質泥岩が露出していた.

 しかしダムの上面から3メートルほど下あたりで硬い凝灰質泥岩がみつかった.凝灰岩ではないようだ.直径5ミリ程度の小さな円礫をかなり含んでいる.側壁とダムとのわずかなすき間で星野がデータを取り始める.

 ダムを登り終えてしばらく遡上すると沢は東へ大きく曲がった.そしてそこにひとつの露頭があった.

 ここに露出していたのも上涌波凝灰岩と判断されそうな黄白色で中粒から粗粒のやわらかい凝灰岩だった.露頭の上に登った陰地が白くて緻密な凝灰岩が最上部にあるのを確認してくれる.

 そこからほんの少し歩いただけで左右が切り立った斜面になった沢の入り口にさしかかった.足元には白色で緻密な凝灰岩がある.極細粒から細粒の凝灰岩ではっきりとした内部構造は認められない.

 近づいてみたら沢の奥がかなり入り組んでいそうなのがよくわかった.左右の斜面は垂直ともいっていいほどの急斜面で登ることなどできそうにもない.

 沢の入り口あたりで先ほどみかけた白色細粒凝灰岩の上位面から走向・傾斜のデータをとっておく.ここでも地層は南から南東へ緩く傾斜していた.

 凝灰岩の上位には青灰色の砂質泥岩がずっと続いていた.新鮮な面では雲母粒子が日光にきらきらと輝く.

 観察を終えて沢へと入っていった.雨が降り続いていたせいか沢の水量は多いようだ.流れの中心に足を入れるとかなりの抵抗を感じる.小さな滝の直下は深くえぐれて底がみえない.泥質岩でできた左右の壁には一面に苔が生えていてとても滑りやすい.かなりスリリングな遡上になった.一足先に進んであとからやってくるふたりを見物することにした.

 ここがこの沢最大の難所だ.高さ2メートルほどの滝の直下は直径2メートルほどのくぼみになっている.周囲の泥岩は水に磨かれて手がかりもない.小さな足がかりをたよりに滝の水に打たれながらもようやく登った.これは星野が撮影してくれた貴重な2枚.
 
 
 
 先に登って待っているとまず星野がやってきた.くぼみをかわそうとしながらもそのくぼみに落下する.

 ふたたび登攀を試みるものの手を滑らせて落ちていく.くぼみの深さがそれほどでもなかったのが救いだった(右の写真をクリックすると動画をみることができます)

 星野は3回は滑落したがそれでもなんとかこの難所を登ってきた.続いて陰地が登ってきた.

 長身を活かして手足でからだを支えるようにうまく登ってくる.しかしあと一息というところで滝壺へ落ちていった.その勢いでハンマーを水中に投げ込んだようだ.その陰地も2度目の登攀でようやく上にやってきた(左の写真をクリックすると動画をみることができます).滝壺に落ちたため,そして滝の水に打たれたために,ふたりとも胸までずぶ濡れになっていた.

 その難所のすぐ上には礫岩といってもいいほどに多量の礫を含む凝灰質砂岩があった.白色軽石もたくさん含まれている.吉岡の下涌波凝灰岩(SWT)というよりは,西川の大桑層下部礫岩(OLG)と呼びたくなる岩相だ.

 狭い谷底のために3人がならんで立つこともままならないし,写真を撮るにも不自由するほどだった.これに加えてレンズについた水滴をふき取ることができないため画面全体にフォーカスが合わせられない.

 それでもその礫岩をなんとか撮影することができた.大きな礫は直径が3センチくらいはありそうだ.基質は青灰色をしている.礫岩自体の厚さは4から6メートルほどだろう.

 この礫岩は上位に向かうにつれて礫の数が減少し,それとともに礫の大きさも小さくなり,最後には青灰色で塊状の泥質砂岩に漸移する.

 ここまでやってくると沢が左右に大きく広がった.これまでよりもずっと歩きやすくなる.

 砂質泥岩に挟在する薄い凝灰岩を星野がみつけていた.厚さ5センチほどの白色細粒の凝灰岩で,下位の砂質泥岩とははっきりとした境界で接するが,上位の砂質泥岩とはゆるやかに波打つような境界で接している.側方への連続性はいいようだ.この凝灰岩の層準に沿ってテラス状の小地形ができていた.大桑層下部と中部とを境するOL3凝灰岩だろうか.

 さっきよりはずっと歩きやすくなったとはいえ,小さな難所はまだまだ残っていた.星野が渡した丸木橋を陰地がへっぴり腰でつたっていく.

 そして青灰色の泥質砂岩に二枚貝の化石が散在するようになった.しかし化石層を形成するというほどの規模ではない.合弁のものが比較的多いようだ.

 泥質砂岩には二枚貝や小さな巻貝の印象化石もたくさんみつかった.

 貝化石のみつかったところから上流へちょっと進んだところで右手奥に露頭があった.黄褐色の細粒砂岩だと星野がいう.しかし,あの滝登りで全員がすっかり濡ていたためあまりの寒さに露頭へ向かう元気もなく,彼の言葉を信じることにして帰り道についた.

 道路への近道という笹藪を陰地が勢いよく登っていく.帰り道となるとやけに早い.

 そして林道へたどりつき車を止めたところまで落ち葉を踏みしめながら戻った.固い乾いた道がやけにうれしい.

  • Camera: Casio G.Bros GV-10 and Fuji WorkRecored 28
  • Lens: Casio Lens 4.6mm f.2.8 and Fujinon Lens 28mm f.3.5