金沢大学工学部「研究概要と研究業績(2001年度版)」より

研 究 概 要 (地球科学グループ 塚脇真二助教授)

  本研究グループでは北陸地方,日本海東縁部および東南アジア大陸部を調査研究対象に以下の4テーマを中心とする研究を地球科学の視点から展開している。

メコン河下流域における過去2万年間の環境変遷史:中国奥地に端を発しヴェトナム南部で南シナ海に注ぐメコン河は流路長約4000qの大河であり,下流域には世界最大の熱帯湖トンレサップや広大なメコンデルタなどの特徴的な地形が発達する。また,この地域は東南アジアにおける重要な開発対象として注目されるとともに古代から高度な文明が栄えたことでも知られる。そこでトンレサップ湖やメコンデルタの堆積物の解析にもとづき同湖ならびにメコン河下流域における過去約2万年間の環境や地形の変化を復元し,環境変化と文明の盛衰との関係を探るとともに将来の気候変動や開発にともなう環境の変化を予測する。

東南アジアに分布するマングローブ林周辺海域における堆積作用:東南アジアの海岸域に広く分布するマングローブ林は貴重な生物資源として,また環境保護の見地からその保全が訴えられている。さらに将来予測される海面変動がその立地環境に与える影響も懸念されている。しかし,マングローブ林周辺海域での堆積物の浸食・運搬・堆積過程についてはいまだに不明な点が多くこれが立地変動予測や保全対策への障害となっている。そこで海底堆積物の解析にもとづいてマングローブ林周辺海域における堆積作用の詳細を解明し,現在の立地条件を明確化するとともに開発や海面変動による堆積作用の将来的変化の予測を試みる。

日本海における過去2万年間の堆積作用ならびに環境変遷史:代表的な縁海のひとつである日本海は,最深部が3千mをこえるにもかかわらず外洋とは対馬海峡や津軽海峡などの狭小な海峡で連絡するのみであり,このような閉鎖性の高さゆえ日本海は氾世界的海水準変動に対応してその海洋環境を著しく変えてきた。そこでおもに日本海東縁部海域での海洋地質学的調査にもとづき,氷河時代最盛期である約2万年前から約6千年前の海面高頂期をへて現在に至るまでの日本海の海洋環境ならびに堆積作用の変遷を解明する。

北陸地方に分布する上部新生界の地質構造発達史:北陸地方には貝化石の多産で著名な大桑層など我が国日本海側を代表する上部新生界の分布が知られる。代表的背弧海盆である日本海の形成過程が世界的に注目されるなか,これらの地層群は拡大中あるいは拡大後の日本海ならびに周辺陸域の環境変遷史や地質構造発達史を解明するうえで重要な存在でありその層序や地質構造などの再検討は急務といえる。また,防災や開発の視点からも同地域での実用的な地質図の完備が望まれている。そこで精密な地質調査による高精度地質図の作成を北陸地方一円で展開し,これにもとづいて北陸地方の後期新生代地質構造発達史を解明するとともに応用地質学あるいは土木工学など関連分野への寄与を目指す。