金沢市南部大桑町の犀川中流域
2003年4月16日(水):担当 陰地章仁

 新人研究者の3人の案内も兼ねて陰地の修士論文でのフィ−ルドを見に行った.途中の小立野で昼食をとってから大桑町の犀川中流域へ車を走らせ,大桑貝殻橋近くに車を止めて上流側へ歩く.雪解け水のせいか犀川の水量はかなり多い.犀川層と大桑層との不整合付近は早瀬になっていた.


 犀川層をまず叩いてみる.露頭表面が流水によく洗われているせいか,白い貝殻片や黒い植物遺骸がやたらと目につく.

 田中がここでサンプリングをはじめた.露頭面をかなり掘り込んでいったものの,凝灰質中粒砂岩でできたこの地層からは微化石に必要なだけの新鮮さは得られないようだった.

 より細粒の岩相を捜して陰地の案内で道路沿いを上流に向かう.しばらく歩くと道路の左手に沿っていい露頭が連続しはじめた.

 陰地が示す細粒の岩相に向かって田中が駆けつけさっそく掘り始める.青灰色の中粒砂質泥岩がつるはしの下から現れた.

 河原の露頭よりたしかに細粒ではあったがここには石灰質のものがほとんど含まれていなかった.そのかわりにサガリテスらしい珪質化石がみつかる.田中が掘っている間,ヴァンナと陰地は土手で日和見をはじめる.

 そこから3メートルほど登ったところにめざす細粒の岩相が見つかった.細粒砂をやや帯びてはいるもののわりと緻密な泥質岩だ.不安定な足場を気にせず田中がサンプリングをはじめる.

 この露頭の付近には春らしくきれいな花が咲き乱れていた.それに混じって鋭い棘のある植物もある.

 陰地の案内で道路に沿ってさらに歩く.すると犀川層に挟在する一枚の凝灰岩が遠目にも見えてきた.

 ここでの犀川層は泥岩といってもよいほどに細粒の砂質泥岩だった.緻密で軽石粒らしいものがあまり含まれていない.そこに挟在する層厚4センチほどの凝灰岩は白色細粒で特徴らしいものは見いだせないが連続性は良好なようだ.

 道路を引き返し橋の下流側に回って大桑層を見ることにした.ここから下流側に分布する大桑層には貝化石層がたくさん挟在する.はじめて見る自然の貝化石密集層にヴァンナがカメラを向ける.

 この貝化石密集層は大桑層中部では下位に位置する.そのやや上位に一枚の白色凝灰岩があった.風化して白っぽくなった露頭表面では識別しがたいものだ.これまでの文献には未記載のもので,陰地はOS1凝灰岩と呼んでいる.

 OS1凝灰岩の3メートルほど上位にO1凝灰岩が挟在する.層厚20センチほどの生痕の発達が著しい白色細粒凝灰岩だ.陰地はこれをOS2凝灰岩と名付けている. 

 その他の凝灰岩の位置を確認するためここでいったん橋の上に上がってみた.増水した犀川のようすはよくわかったが,残念ながらより下流にある他の凝灰岩層は識別できなかった.

 帰路に便利なようにここで車を簡易野球グラウンドの駐車場に移動させた.グラウンド周辺では桜が満開だった.

 駐車場から犀川が大きく屈曲するところへ降りる.地学実験でいつも化石を掘るところだ.増水した犀川の水が露頭を乗り越えそうな勢いで流れている.ここに露出する貝化石密集層にもヴァンナがカメラを向ける.

 めざす凝灰岩はすぐに見つかった.長谷川さんがO3凝灰岩と名付けたものだ.ただ,残念なことに凝灰岩の大部分は水中に露出していた.

 カメラを水中におろしストロボを強制発光させてこの凝灰岩の写真をとりあえず撮ってみた.しかし,そのやや上流側の川岸にこの凝灰岩が露出するのがすぐに見つかった.青灰色の細粒砂岩に挟在する白色細粒の凝灰岩はよく目立つ.生痕化石の発達が著しい.この凝灰岩は陰地の修士論文ではOS4と記載されている.

 そして草木の茂る河原を30メートルほど上流へ進んだあたりに最後の凝灰岩があった.長谷川さんのO2凝灰岩で陰地の修論ではOS3凝灰岩になる.層厚は25センチ程度だろう.下位の細粒砂岩とは明瞭な境界をもって接するが,上位へは漸移するようだ.基底部には中粒の軽石がレンズ状の密集層を形成している.直下にある大桑層の砂岩より淡い色をしているものの風化した露頭では識別が難しい.

 ここでも田中がサンプリングをはじめた.激流に落っこちやしないかと心配になる.ヴァンナと陰地はここでも日和見をはじめる.

 駐車場への引き返しがてらに陰地があのサケ化石を発見した現場へ立ち寄った.化石好きの田中がハンマーで叩き回っているが,やはりそう簡単には見つからないようだ.

 陰地の案内で大桑町を発って末町から浅野川沿いへと道路を下る.川にかかる橋のすぐ手前の道路沿いに露頭があった.枯れ草に被われた中に白い凝灰岩があった.陰地の説明では犀川の大桑層に挟在するOS1凝灰岩に対比されるという.

 その露頭のすぐ下となる浅野川河床には犀川層の凝灰質泥岩が露出する.ここでの大桑層下部は犀川地域に比べてかなり薄くなることになる.この露頭で今日の巡検はおしまいとなった.

  • Camera: Casio G.Bros GV-10
  • Lens: Casio Lens 4.6mm f.2.8