トンレサップ湖調査TS21−1

2000年11月18日〜12月5日

(その10:11月28日)


11月28日(火):シェムリアプ

 今日からトンレサップ湖の調査再開だ.午前6時に起床して朝食を済ませ,車に機材を積み込んで午前7時にホテルを出発.しかし,シェムリアプ市内を抜けたところですぐ後を走るワゴン車がいきなりハザードランプを点けて停車した.何ごとかと車を止めて駆け寄ってみたら,開いたドアから顔を出したソタムが「加藤さんがいない・・・」と一言.ホテルに置いてきてしまったらしい.ワゴン車にはそのまま湖まで行ってもらい,こっちの車でホテルへ引き返すことにする.車がホテルの玄関に横付けになるかならないかのうちに,加藤さんが勢いよくドアを開けて飛び出してきた.ふと目を離したときには車が出発したあとだったという.かなりあせっていたようだ.

 ちょっとした事件があったものの午前7時45分には船着き場に到着することができた.調査機材を急いで船に積み込んで出航.柱状採泥船にはナリンとシムとが乗り込んでくる.すばらしい天気だ.青空にプノン・クロムの威容が映える.風もない.

 

 

 船が水上集落を過ぎたあたりで採泥器を組み立てることにした.そして致命的な失敗に気づくことになった.採泥器のステンレスパイプがどこにも見つからない.どうやら車に積み忘れたようだ.パイプがないと採泥器はただの鉛のかたまりでしかない.「加藤さんを忘れたほうがよかった・・・」と誰かがつぶやく.すぐに船を反転させて船着き場へ戻る.行動をともにする予定だった表層採泥船もいっしょに戻る.2回もつづいた忘れ物に縁起の悪さを感じたため,この日の調査は中止にして調査は予備日と差し替えることにした.ホテルに戻ってみたらステンレスパイプは資材置き場として借用していた部屋のベッドに横たわっていた.

 

 

 ホテルに戻ったのは午前9時すぎのこと.調査予備日には神谷さんがアンコール・ワットなどの水域でのサンプリングを計画していた.遺跡警護の人たちとのトラブルが生じては困るので同行することにする.小沢君は当然のこととして,ソタムとナリンもいっしょに来てくれた.

 まずはアンコール・ワットの環壕でのサンプリング.西参道の半ばにあるテラスから水面近くに降りることができる.まずは水をくみ取って水質から調べる.通りゆく観光客たちが物珍しそうに足を止めている.遺跡監視官もやってくる.

 

 

 まずは神谷さんが網をふるう.この日の水位だと水深は4メートルくらいだろうか.このタモ網でもいくらかの水生植物は採集できたようだ.

 

 

 続いてソリネットを投げる.環壕の底をひっかいた採泥器は水底植物を掻き取っていた.それをすぐに水洗いしてふるいで残渣を選り分ける.

 

 

 見物人がだんだん増えてくる.観光客はちょっと立ち止まるだけだが地元の子供たちはいつまでも飽きずに眺めている.

 

 

 十分な成果に満足して次のバンテアイ・クデイ遺跡へ向かった.

 

 

 これが狙いのバンテアイ・クデイ正面側の環壕.

 

 手順通りに水質を測定し,それからタモ網でサンプリング.

 

 

 何もすることがなかったので水質の測定を手伝うことにする.いつもどおりに溶存酸素,電気伝導度,水温,そしてpH.伝導度は低い.水質はやや酸性といったところ.

 

 

 巨大水浴場のスラ・スランへと場所をかえてサンプリング.

 

 

 スラ・スランではソリネットが活躍する.

 

 

 サンプリングが終わったときはもう正午になっていた.アンコール・ワット前のカフェに入って冷えたビールでのどをうるおす.

 

 

 そしてシェムリアプ市内へと道を引き返す.小舟を運ぶバイクをなぜかたくさん見かけた.

 

 

 午後0時40分にホテルへ戻ったが,尾田・加藤両長老の姿がどこにも見あたらない.フロントでたずねるとどこかへ出かけたらしいという.残る全員で近くのラッキー・カフェでピザの昼食をとる.そして部屋で一休みしたあと午後3時から西バライへサンプリングに出かけた.このときにも両長老の姿はホテル内には見あたらない.フロントに手紙を残して出発する.

 30分ほど走ったところで西バライに到着した.澄み切った水に青空が映える.これまでに訪れた水域とは違って,西バライには水草らしきものが見あたらない.神谷さんがさっそくソリネットを投げる.かかってきたのは空き瓶など・・・.

 

 

 すぐ近くの水浴場では子供たちが遊んでいた.西バライの水かさはやや増したようだ.9月には水面から1メートルほどの高さにあった休憩所の足下にまで水が達していた.

 

 ここでもすぐに見物人が集まってくる.みんな地元の人たちだ.西バライへやってくる観光客は少ない.この日はわれわれだけだった.

 

 

 西バライ南側の水門外側にもサンプリングに行く神谷チーム.

 

 

 訪れる観光客が少ないにもかかわらず,ここにも土産売りの子供たちがたくさんいる.ひとりの子供から絵はがきを買った小沢君はすぐに別の子供たちに取り囲まれてしまう.顔なじみの子がいたので竹細工のブレスレットを買うことにした.1ドル札を渡したらブレスレットが40個も返ってきた.1個が100リエルなのでおまけも付けて40個だという.アンコール・ワットでは確か3個1ドルで売っていた.

 

 

 ホテルに戻ってみたら尾田さんと加藤さんがロビーで待っていた.置いてけぼりをくったと勘違いし,われわれがホテルを出るよりも早くタクシーで西バライに出かけたらしい.そしてバライからバイクタクシーで引き返す途中にわれわれの車とすれ違ったという.

 部屋に戻って一休みし,それから市場へ買い物にでかけた.今日の市場は日本人の観光客が多い.毎日のように市場へ出かけていると曜日によって客層が違うのを感じる.おだやかにショッピングを楽しんでいる人がいるかと思えば,とんでもない値段にまで値切ろうとしたあげくに店の人を怒鳴りつける横柄な客もいる.米国人と日本人とにマナーの悪い客が多いようだ.

 夕食は市場近くのロータスレストランにした.夕食は好きなところでとってもかまわないことにしてあったのだがいつも全員一緒になる.この日の料理の注文は尾田さんの担当だった.カレー料理やエビのサラダ,生春巻きなどぜんぶで77ドルとやはり高くついた.他のメンバーが注文するとだいたい50ドル前後なのだが,尾田さんの注文だとなぜか高くなる.

 バイヨンホテルに戻って屋外カフェでくつろいでいると,このホテルで給仕として働いている若者ふたりが近づいてきた.英語を少しでもうまく話せるようになりたいらしい.にこにこしながらも一生懸命に話しかけてくる.30分ほどもそうやっていただろうか.そのおかげで彼らからもいろいろと教わることができた.彼らの給料や暮らしぶり,田舎にいるご両親のこと,そして将来の夢などなど.

 午後10時前には部屋に戻ってまずシャワーで汗を流す.コアキャッチャーは昨夜作ってあったし,採泥地点の確認も昨夜のうちに終わっていた.すぐに就寝.