トンレサップ湖調査TS21−1

2000年11月18日〜12月5日

(その9:11月27日)


11月27日(月):シェムリアプ(アンコール遺跡観光)

 早いものでシェムリアプに入って今日で6日目になる.疲れもたまってきたころなので,すべての作業を休みにして全員でアンコール遺跡の観光に行くことになった.ダラスはバンコク駐在中に何度も来ているらしい.加藤さんと神谷さん,それにサンバースは2回目.あとはカンボジア人メンバーにしても全員初めてという.午前8時ころからゆっくりと朝食をとり,午前8時半にホテルを出発.外国人は途中にある観光ゲートで一日周遊観光パスを購入する.

 まずバンテイアイ・クデイ寺院を訪れた.上智大学がずっと修復作業などにたずさわっているところだ.丸井さんが遺跡の中を案内してくれる.観光客の姿はほとんどなかった.

 

 

 遺跡の裏手に回ってみたら土産物売りの女の子たちが待ちかまえていた.北スラスラン村の子供たちだろう.サロンやクロマーを山のように抱えている. 

 

 

 続いてバンテアイ・クデイの正面にあるスラ・スランを訪れる.水面に浮かぶ水草を神谷さんがじっと見つめる.

 

 

 そしてアンコール観光の目玉のひとつとなるタ・プローム遺跡.巨大な樹木が遺跡を包み込むように茂っていることで有名な遺跡だ.

 

 

何度訪れてもすごい.

 

 今年の6月に強風で折れてしまった巨木のひとつ.その根元を歩きすぎる.尾田さんの姿が見えなくなった.迷子になったらしい.

 

 

 この遺跡には観光客の姿が多い.ソタムもそのひとりになりきっている.さまざまな言語が聞こえてくる.タ・プローム遺跡を出るときになってようやく尾田さんが現れた.本人もどこで道に迷ってしまったのかわからないという.

 

 

 続いてタ・ケウ遺跡に行った.そそりたつようなピラミッド型の寺院だ.四方にある参道の階段はいずれもかなりの急傾斜.

 

 

 遺跡の頂上に上りつめても見えるものといったら森ばかり.この遺跡には観光客相手の遺跡解説で小銭をかせぐ子供たちも多い.ダラスがそんな子供のひとりにつかまった.白人はすべて米国人だと思う子供たちにとって,ニュージーランド人の彼はどう見てもそのひとりだ.ダラスに向かって流暢な英語で遺跡の説明をはじめる.それに気を悪くした彼は下手なフランス語で返事をする.するとその子は彼よりもずっと上手なフランス語で遺跡の説明をはじめた・・・.英語,フランス語ともに堪能なソタムが言葉に詰まったダラスを見て大笑いしていた.

 

 

 午前中の最後の遺跡としてアンコール・トムの中心寺院バイヨンを訪れた.92年に地下構造や石材などを調べたところ.いちばんなつかしい遺跡だ.東側正面から遺跡に入る.

 

 

 そして狭い階段を上って上部テラスへ上る.お昼時のせいか観光客はほとんどいない.テラスでくつろぐ三長老. 

 

 

 テラスから降りて第一回廊の壁画を見て回る.海棲魚が描かれていないものかと壁画を見て回った96年の調査が思い出される.

 

 

 昼食はアンコール・ワット近くのレストランにした.強い日差しの中を堅い石畳を歩く遺跡観光のほうが船上作業よりもくたびれる.冷たいビールがとてもうまい.レストランでゆっくり休憩してもっとも有名なアンコール・ワットに入ることにした.ここで尾田さんが土産売りの子供に捕まった.土産売りの子供たちには人の性格を見抜く才能があるようだ.いちばん落としやすそうな相手をねらってやってくる.

 

 

 2時間後にアンコール・ワットの正面入口で落ち合うことにして各自思い思いに寺院の中へ入っていった.環壕にかかる西参道をわたって境内に入る.入り口をくぐり抜けると正面にアンコール・ワットの尖塔群が見えてくる.

 

 

 ここで腹立たしいことが起こった.正面参道を中央祠堂へ歩いていったところ,参道半ばのテラスでいきなり右手側に降りるように指示された.理由をたずねるとハリウッド映画の撮影隊が一部敷地を借り切っての映画撮影中だという.アンコール・ワットがもっとも美しく見えるとされる北側聖池周辺が立入禁止になっている.怒りを覚えながらも仕方なく南側聖池をぐるりと回って中央祠堂に向かう.いっしょにいたダラスも怒り心頭といった面もちだった.ふたりで映画関係者をつかまえて詰問してみたが返ってくる返事といえば「金を払っている!」のみ.傲慢さにさらに腹が立ってくる.

 

 

 中央祠堂に入ってみたが,第一回廊西側北面は映画撮影中のため立入禁止になっていて見ることができない.北側聖池のまわりにはトンレサップ湖に浮かぶ水上住宅を再現したものと思える粗末な小屋が並んでいる.あの広大なトンレサップを北側聖池で代用しようとは!こんどは浅知恵がこっけいになってくる.木陰ではエキストラらしい僧侶の群が真新しいオレンジの僧衣に身を包みながらもしゃがんでタバコをふかしていた.

 

 

 沐浴場にはオレンジ色の傘が立っていた.これも映画の撮影用だ.バイヨンの壁画あたりからまねたのだろう.しかし,ここに傘が立っていたという証拠はまったくない.中央祠堂へ上る階段のひとつには木製の階段が作りつけられていた.しかも「進入禁止」の立て札付きで.

 

 

 腹の立つことや呆れかえることばかりで中央祠堂を歩いていてもちっとも気分が落ち着かない.たまたま出会った日本人観光客の一団も口々に不満をもらしていた.

 

 

 降りてみたら西参道の通行が許されていた.歩く道すがらの右手に北側聖池がよく見えていた.こんな粗末なセットであのトンレサップ湖を再現しようとは・・・.アメリカが誇る五大湖のひとつにも匹敵しようという大きさを知らないのか.

 

 

 そして西参道をわたってアンコール・ワットの外へ出る.参道を帰ってくる観光客の足取りがどれも重そうだ.

 

 

 待ち合わせ時間にまで間があったのでワット前の茶店でコーヒーを一杯注文する.サトウキビとライムとを搾って作るジュースの機械も置いてあった.

 

 

 店の前ではニワトリやイカを焼いて売っていた.干しイカが軒先に吊されている.淡青丸の日本海航海を思い出す.

 

 

 午後4時に全員が車のところへ戻ってきた.くたびれながらも全員がひとときの観光を楽しんだようすだ.走り出した車から見るアンコール・ワットには虹がかかっていた.12月に開催の「アンコールワット・ハーフマラソン」の看板も目にとまる.

 

 

 ホテルに到着したのは午後4時半だった.すぐにシャワーで汗を流しためこんでいた汚れ物も洗っておく.それから市場に出かけてみたら,通りに面したアヘンの店では神谷さんらが買い物の真っ最中だった.アセイの店で着替え用のTシャツを一枚買っておく.すっかり顔なじみになってしまったせいか,もうけなしの仕入れ値で売ってくれるのが嬉しくもあり申し訳なくも思う.

 午後6時半からホテルのカフェでミーティング.これまでに開封の終わった柱状試料のおおまかなようすを知らせ,表層試料については神谷さんに報告してもらう.そして明日からの予定を全員で確認し,夕食はそのままホテルでとることにした.食後には日本人メンバーで近くのマティーニディスコでのみ直し,部屋に戻ったのは午後11時を回っていた.それから急いでコアキャッチャーを作り,明日の採泥測線と採泥予定地の位置をノートに書きとめてベッドに入った.