トンレサップ21計画打合せ渡航(Tonlesap21-A)
2000年6月18日〜6月25日(その1:6月18〜22日)

6月18日(日):金沢→関西空港

 今年度から始まるトンレサップ21計画の打ち合わせのためカンボジアに渡航することになった.今回は各省庁や研究機関などへの挨拶が第一の目的なので荷物は軽くてすむ.午前中に必要な書類をとりそろえて帰宅.衣類などの身の回り品をスーツケースに詰めて出発準備はすべて整った.スーツを持っていくべきかちょっと迷ったがネクタイだけにした.

 バスで金沢駅へ向かう.友人たちへの小倉羊羹などを駅で買い込み午後5時58分発のサンダーバード42号で金沢を発った.夕食は金沢らしく和風ちらしの駅弁にビール.新大阪駅で関空特急はるかに乗り換えて午後9時半に関西空港に到着.そこから南海電鉄で引き返しりんくうタウン駅で下車した.たった一駅ながら350円の乗車料は高い気がする.

 りんくうタウンから歩いて関西エアポートワシントンホテルへ入ってチェックイン.オープンしたばかりのこのホテルは部屋が広くて居心地がいい.2階のコンビニエンスストアがとても便利だが,ここには酒類だけは置いてない.ビールは客室フロアの自動販売機で買うことになる.値段はもちろんホテル料金だ.持参した本「日本列島を往く(一)」を読み出したら意外と面白くて就寝したのは午前2時だった.


6月19日(月):関西空港→バンコク→プノンペン

 午前8時に起床しサンドイッチと缶コーヒーとをホテル内のコンビニで買って朝食にする.午前9時にホテルをチェックアウト.送迎サービス車は残念ながら満席で利用できなかった.りんくうタウン駅まで5分ほど歩きそこからJRで関西空港へ.到着後すぐに日本航空の搭乗カウンターへ向かった.この季節だけあってカウンターはがらがらだった.チェックインを済ませスーツケースをプノンペンまであずける.それから空港内の郵便局で現金をおろし,そのまま空港2階の三菱銀行でドルに換金した.そして北ウイングで出国手続きをすませ出国ロビーへ入った.

 午前11時すぎに機内へ案内される.搭乗機のJL623/TG623便は予想に反して満席だった.ほぼ予定どおりの午前11時半に離陸する.せっかく窓際の席がとれていたのに離陸直後に飛行機は雲の中に入ってしまった.途中で海は見えたもののヴェトナム上空にさしかかったあたりで地表はまた雲に被われた.しかたなく機内サービスのビールやワインをのみ本の続きを読みながら時間をすごす.途中で機内食を食べさらにワインとブランデー.酔ったところで午後3時(日本時間午後5時)すぎにバンコクのドンムアン国際空港に到着した.

 まずプノンペン行きのバンコク航空PG922便にチェックインする.それから空港内タイレストランのコーヒーで酔いをさまして午後5時前に出国ロビーへ入った.ここで上智大学の石澤良昭教授とたまたま出会った.プノンペンで開催される会議にご出席とのことだった.石澤先生と話しているうちに待ち時間が過ぎた.午後5時半に機内へ案内される.機内食を食べ機内サービスのビールをのみ,そしてカンボジア出入国書類を書いているうちにプノンペンのポチェトン国際空港に到着した.

 空港で入国手続きを終え手荷物のスーツケースを受け取って石澤先生と外へでると,そこには上智大学の荒樋久雄さんと田代亜紀子さんが石澤先生を出迎えにきていた.その車に同乗させてもらってプノンペン市内に入る.ほとんど日の落ちたプノンペンにはネオンサインが明るく輝いている.20分ほどでダイヤモンドホテルに到着.さっそく507号室にチェックイン.部屋でスーツケースを開き中身をざっと改めてから街に出た.

 夜のプノンペンを大通りに沿ってぶらぶらと散歩する.とくに危険な雰囲気はうかがえない.もう午後10時だというのに子供たちが屋台のそばで遊んでいる.外国人の姿もあまり見かけない.レストランにも客は少ないようだ.市内にあいかわらずの活気のなさを感じる.ホテル近くの屋台で焼きそばとビールの夜食をとってホテルに戻った.ミニバーのビールをのみながら明日の訪問予定をおおまかに決めておく.鉱工業省,環境省,メコン河委員会,文化省などなど.午後11時半に就寝.


6月20日(火):プノンペン

 午前7時に起床し訪問準備をひととおり終えてから階下へ降りた.朝食後にいったん部屋へ戻りネクタイを締めてふたたびロビーへ.カンボジアでネクタイを締めるのは久しぶりのことだ.首のまわりがうっとうしい.午前8時半にカンボジア鉱工業省地質調査所のシエン・ソタムがホテルにやってきた.彼とは1996年のトンレサップ96計画からのつきあいだ.親しい友人のひとりでもある.

 彼が乗ってきた車でまずモニバン通りの地質調査所の中央事務所を訪れる.待たされることなく所長のソヴ・チヴクン氏に紹介される.小柄で中国系の顔立ちをしたソヴ所長は英語が苦手なようだ.握手とともにフランス語で話しかけられた.しかし,こちらのフランス語も片言に毛が生えた程度.結局,ソタムの英語からクメール語への通訳で話を始めることになった.

 トンレサップ湖での調査計画の説明を所長はほとんどだまって聞いていた.ときおりちょっとした質問が入る.「何人くらい必要か」「予算は?」など.あとでソタムに聞いたところ,所長がいちばん気にしていたのはカンボジア側では資金負担ができないことだという.30分ほどの訪問で所長にはこちらの希望のすべてを了解してもらい,大臣からの調査許可書の発行をお願いして席を辞した.

 所長への挨拶のあとで所員のテップ・ヴァンダと会った.まだ30代半ばの彼はIOC/WESTPAC古地理図作成会議の仲間だ.カンボジアの古地理図のことで1時間ほどの打ち合わせを済ませ,それから迎えにきてくれた同じ車でソタムがホテルまで送ってくれた.

 ホテルに戻ってまずカフェでコーヒーを一杯.そしてタクシーで環境省のトンレサップ計画事務室を訪ねた.主任のネウン・ボンヘア博士とは顔なじみだ.今回のトンレサップ湖調査でいっしょに仕事をするわけではないが計画のおおまかなところを伝えておく.ついでにこの8月に予定している別件でのトンレサップ湖調査も紹介しておいた.彼はすべての話をじっくりと聞いてくれる.そして専門的な質問を次々とよせてくる.ソタムもそうだが彼も将来のカンボジアを担う人材のひとりだろう.トンレサップ湖についてのフランス語の文献一冊を借り受け8月の再会を約束して環境省をあとにした.

 ホテルの向かいにあるダイヤモンド写真店に立ち寄り,そこで借り受けた本のコピーと製本とを頼んだ.400ページの本を夕方までにコピーをとって製本までしてくれるという.これで8ドルは安い.部屋に戻って石澤先生への置き手紙をしたため,それから外へでて近所の中華料理店で水餃子の昼食をとった.

 午後4時にふたたびソタムがやってくることになっていた.まだ3時間くらいあったので近所のインターナショナル理髪店へ行く.すっかり顔見知りになったパンチパーマの主人が手際よく髪を整えてくれる.散髪代が5ドル.そして中央市場でちょっと買い物をしてホテルに戻り,レストランでコーヒーをのみながらソタムの到着を待った.

 時間ちょうどに彼はやってきた.カフェでトンレサップ湖調査の細かい打ち合わせに入る.カンボジア側から何名参加するか,経費は,機材は,そして日程はなどなど.彼も4年ぶりのトンレサップ調査を楽しみにしているようだ.彼の家族を招待しての今夜の夕食の約束をとりつけて1時間ほどの打ち合わせを終えた.

 ソタムにはふたりの娘とひとりの息子がいる.娘たちは10歳と9歳,そして息子は5歳だという.子供たちの名前は長すぎて覚えられない.奥さんはプノンペンの中央郵便局に勤めている.午後6時きっかりにソタム一家がホテルにやってきた.午前中に雇っていたタクシーが追加料金でチュロイ・チャンバーのレストランまで送迎してくれることになった.子供が3人とはいえ一家5人がタクシーの後部座席に乗り込みホテルを出発.数日前にオープンしたばかりだというレストランにソタムが案内してくれた.

 ソタムの子供たちはみんな可愛らしい顔立ちをしている.そしてとても活発だ.ふだんは物静かなソタムも今夜は陽気になっている.楽しい夕食のひとときを過ごし午後8時半にホテルへ戻った.ソタム一家を見送ったあとで夜の街を1時間ほど散歩し屋台でビールをのんでからホテルへ戻る.さすがにくたびれていたのかシャワーを浴びすぐにベッドに入った.


6月21日(水):プノンペン

 渡航の第一の目的だった地質調査所訪問は昨日無事に終えることができた.それに安心したのか目が覚めたときには時計の針が午前8時を回っていた.眠気覚ましのシャワーを浴びてホテルのカフェで朝食を済ませる.たまたまロビーにいらした石澤教授に昨日の訪問結果を簡単に報告し,それからティラが運転するタクシーでホテルを発った.

 まず環境省でボンヘア博士に借りていた本を返し,続いてメコン河委員会で主任のチャイユース氏にトンレサップ湖での調査計画のあらましを伝えておく.プノンペン芸術大学にちょっと立ち寄り,昼食はメコン河委員会で紹介された寺村氏と独立記念塔近くの日本食堂「比摩人」でのキスフライ定食.材料をどこから仕入れるのか日本の学食にでもありそうなふつうの味なのに少々驚かされる.

 いったんホテルに戻って一休み.それから明日のシェムリアプ行きの航空券を受け取るためにPITトラベルのプノンペン事務所へ行くことにした.ホテル前にいたバイクタクシーの一台を拾ってでかけたものの,事務所の場所に自信満々だった運転手が道に迷ってなかなかたどり着けない.事務所へなんども電話をかけたあげく,ようやく到着したときにはホテルを出てから1時間以上もたっていた.顔も服も排気ガスとほこりとで真っ黒になっている.気分悪く代金を支払って事務所へ入る.年輩の社員の方が冷たい水でもてなしてくれた.

 PIT事務所で航空券を受け取ってホテルへ戻る.帰りのバイクタクシーではとても感じのいい運転手に出会えた.午後いっぱいをつかって航空券を受け取ったことになってしまったが,彼のおかげでその不愉快さが一掃されたようだ.ホテルのカフェでコーヒーをのみながら今日の仕事内容をノートにまとめ,午後6時から田代さんといつもの台湾料理店で夕食をとり,そのついでに明日のシハヌークビル行きの予定を決めておく.午後9時にホテルへ戻り,シャワーでバイクタクシーの汚れを落としてから就寝.


6月22日(木):プノンペン→シハヌークビル→プノンペン

 プノンペンで予定していたすべての訪問が終わった.そこで今日はかねてから計画していたカンボジア南西海岸を田代さんともども見に行くことにした.午前6時にベッドから起きだしカメラや測定機器の準備を手早く整える.ホテルのカフェでの朝食を終えたところに田代さんがやってきた.そしてティラが運転するタクシーでシハヌークビルへ向けて午前7時半に出発した.

 タクシーはまず空港方面へ向かって西へ走る.トゥール・コックあたりでは交通渋滞に巻き込まれて思うように先へ進めない.途中の大きな工場前ではストライキ中らしい人だかりにもであう.車が快調に走りはじめたのはホテルを出発してから1時間以上もたってからだった.カンボジアの郊外といえども道路はすばらしい.途中で大型トラックとなんどもすれ違う.シハヌークビルでとれた海産物や,港で陸揚げされた輸入品をプノンペンまで運んでいるという.行程半ばにある祠の立ち並ぶ峠を越え質素な住居が散在する山あいの道をとおって車はさらに南西へと向かう.


 午前10時40分にシハヌークビルがあるコンポン・ソム州に入った.それから30分もたたないうちに青い海がみえてきた.「カンボジアじゃなーい!」と田代さんが歓声をあげる.赤茶けた大地ばかりをみてきたせいか海の青さが目にしみる.プノンペンを出発してちょうど3時間後だった.

 今日は時間の許す限りたくさんの海岸を見て回る予定にしていた.最初にシハヌークビルでもっとも北西にあるビクトリービーチへ.思っていたより大きな砂浜だった.

 ここではカニの食事の跡が砂浜一面におもしろい模様を描いていた.どんな生物のものだかわからない奇妙な形の排泄物もあちこちにあった.

 海岸にはたくさんの植物破片が落ちている.マングローブの種子の鞘も見つかる.

 次にコーポスビーチに行った.海岸の向かい側にはこんもりとした森に包まれたポス島がある.しかし,ここはビーチとは名ばかりの岩石海岸だった.等間隔に節理の入った砂岩の露頭が一面に広がっている.そのわずかな隙間に砂浜がある.

 セブンステアビーチを訪れそれからシハヌークビルでいちばん大きいというオッチュティアルビーチへ.真っ白い砂が一面に広がる美しい海岸だ.これまでみたビーチの中ではもっとも規模が大きいものだろう.砂浜を歩いてみたら鳴き砂だということに気がついた.靴の下で砂がきゅっきゅっと音をたてる.ここでは海岸と腰ほどの深さの海底とから試料を少々採集しておく.

 海岸には円錐屋根の東屋が並ぶ.海水浴を楽しむ人の姿はほとんどないが立派なビーチリゾートになっている.カンボジアとは思えない風景だ.売り子さんの頭にのった真っ赤なシャコが空の青に映える.

 

 先々の調査基地のことを考えてビーチに面した2軒のホテルを訪れてみた.左側にあるタイ風のホテルがシーサイドホテル.右側にある奇妙な形をしたのがクリスタルホテル.どちらも1泊35ドル.両方のホテルとも海のみえる部屋は宿泊料が高くなるらしい.


 シハヌークビル市内の食堂で名産のシーフードの昼食をとってプノンペンへと引き返す.市のはずれにはおどろくほどに近代的なガソリンスタンドができていた.それだけガソリンの需要が高まっているのだろう.事務所のとなりにはちょっとしたコンビニエンスストアもある.そろいの制服を着た従業員の姿はどうにもカンボジアらしくない.

 プノンペンへ帰る途中でもたくさんのトラックとすれ違った.陸上交通も以前とくらべてずっと大規模にまた活発になったようだ.道端にころがっているトラックを2台ほどみかける.スピードの出しすぎで横転したのだろうか.ティラの話だと交通事故もずいぶん増えたという.シハヌークビルを出発して約3時間後の午後5時40分にプノンペンへ帰り着く.ホテルのカフェで一杯のコーヒーを楽しんでから,田代さんともども近くの台湾料理屋で夕食をとった.そして部屋に戻ってシャワーをさっと浴び明朝のシェムリアプ行きに備えて早めにベッドに入った.


  • Camera: Pentax MZ-3
  • Lense: SMC Pentax-FA Zoom 28-70mm f.4
  • Film: Fujicolour Reala Ace and Pro 400
  • Scanner: Epson FS-1200WINS