6月20日(火):プノンペン
午前7時に起床し訪問準備をひととおり終えてから階下へ降りた.朝食後にいったん部屋へ戻りネクタイを締めてふたたびロビーへ.カンボジアでネクタイを締めるのは久しぶりのことだ.首のまわりがうっとうしい.午前8時半にカンボジア鉱工業省地質調査所のシエン・ソタムがホテルにやってきた.彼とは1996年のトンレサップ96計画からのつきあいだ.親しい友人のひとりでもある.
彼が乗ってきた車でまずモニバン通りの地質調査所の中央事務所を訪れる.待たされることなく所長のソヴ・チヴクン氏に紹介される.小柄で中国系の顔立ちをしたソヴ所長は英語が苦手なようだ.握手とともにフランス語で話しかけられた.しかし,こちらのフランス語も片言に毛が生えた程度.結局,ソタムの英語からクメール語への通訳で話を始めることになった.
トンレサップ湖での調査計画の説明を所長はほとんどだまって聞いていた.ときおりちょっとした質問が入る.「何人くらい必要か」「予算は?」など.あとでソタムに聞いたところ,所長がいちばん気にしていたのはカンボジア側では資金負担ができないことだという.30分ほどの訪問で所長にはこちらの希望のすべてを了解してもらい,大臣からの調査許可書の発行をお願いして席を辞した.
所長への挨拶のあとで所員のテップ・ヴァンダと会った.まだ30代半ばの彼はIOC/WESTPAC古地理図作成会議の仲間だ.カンボジアの古地理図のことで1時間ほどの打ち合わせを済ませ,それから迎えにきてくれた同じ車でソタムがホテルまで送ってくれた.
ホテルに戻ってまずカフェでコーヒーを一杯.そしてタクシーで環境省のトンレサップ計画事務室を訪ねた.主任のネウン・ボンヘア博士とは顔なじみだ.今回のトンレサップ湖調査でいっしょに仕事をするわけではないが計画のおおまかなところを伝えておく.ついでにこの8月に予定している別件でのトンレサップ湖調査も紹介しておいた.彼はすべての話をじっくりと聞いてくれる.そして専門的な質問を次々とよせてくる.ソタムもそうだが彼も将来のカンボジアを担う人材のひとりだろう.トンレサップ湖についてのフランス語の文献一冊を借り受け8月の再会を約束して環境省をあとにした.
ホテルの向かいにあるダイヤモンド写真店に立ち寄り,そこで借り受けた本のコピーと製本とを頼んだ.400ページの本を夕方までにコピーをとって製本までしてくれるという.これで8ドルは安い.部屋に戻って石澤先生への置き手紙をしたため,それから外へでて近所の中華料理店で水餃子の昼食をとった.
午後4時にふたたびソタムがやってくることになっていた.まだ3時間くらいあったので近所のインターナショナル理髪店へ行く.すっかり顔見知りになったパンチパーマの主人が手際よく髪を整えてくれる.散髪代が5ドル.そして中央市場でちょっと買い物をしてホテルに戻り,レストランでコーヒーをのみながらソタムの到着を待った.
時間ちょうどに彼はやってきた.カフェでトンレサップ湖調査の細かい打ち合わせに入る.カンボジア側から何名参加するか,経費は,機材は,そして日程はなどなど.彼も4年ぶりのトンレサップ調査を楽しみにしているようだ.彼の家族を招待しての今夜の夕食の約束をとりつけて1時間ほどの打ち合わせを終えた.
ソタムにはふたりの娘とひとりの息子がいる.娘たちは10歳と9歳,そして息子は5歳だという.子供たちの名前は長すぎて覚えられない.奥さんはプノンペンの中央郵便局に勤めている.午後6時きっかりにソタム一家がホテルにやってきた.午前中に雇っていたタクシーが追加料金でチュロイ・チャンバーのレストランまで送迎してくれることになった.子供が3人とはいえ一家5人がタクシーの後部座席に乗り込みホテルを出発.数日前にオープンしたばかりだというレストランにソタムが案内してくれた.
ソタムの子供たちはみんな可愛らしい顔立ちをしている.そしてとても活発だ.ふだんは物静かなソタムも今夜は陽気になっている.楽しい夕食のひとときを過ごし午後8時半にホテルへ戻った.ソタム一家を見送ったあとで夜の街を1時間ほど散歩し屋台でビールをのんでからホテルへ戻る.さすがにくたびれていたのかシャワーを浴びすぐにベッドに入った.
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