海外学術調査「カンボジアのアンコール遺跡区域における環境破壊・環境汚染の現状と影響評価」国内報告会

−第4回国際学セミナー(金沢大学)および海外学術研究報告会(日本大学)−


第4回国際学セミナー(2009年10月29日:金沢大学総合教育講義棟)
海外学術研究報告会(2009年10月31日:日本大学文理学部)
 
※日メコン2009交流年事業申請中

 


海外学術調査「カンボジアのアンコール遺跡区域における環境破壊・環境汚染の現状と影響評価」成果報告会

−国際シンポジウムおよび研究セミナー−


主 催:海外学術調査隊「カンボジアのアンコール遺跡区域における環境破壊・環境汚染の現状と影響評価」(通称:Team ERDAC)


共 催:アンコール遺跡整備公団(Authority for Protection and Management of Angkor and the Region of Siem Reap,通称:APSARA Authority)

後 援:在カンボジア日本大使館,UNESCO/プノンペン事務所,東アジア・東南アジア地球科学計画調整委員会(CCOP),カンボジア工科大学(ITC),日メコン2009交流年事業

事業目的
海外学術調査「カンボジアのアンコール遺跡区域における環境破壊・環境汚染の現状と影響評価」による2006年から2008年までの3年間に得られた調査研究の成果をカンボジア社会へ還元することを本事業の第一の目的とする.さらに,この報告会をシェムリアプでは国際シンポジウムとして開催することで,アンコール遺跡区域における自然環境の調査や保全事業がより活性化するきっかけとなることを合わせ狙う.

事業内容
シェムリアプでの報告会は2009年3月17日(火)にJASA事務所内のUNESCO-JASAホールで国際シンポジウムとして開催する.シンポジウムの名称は「International Symposium on the Present Situation of the Environment in the Angkor Monument Park and Its Environs, Cambodia」であり,Team ERDAC日本側参加研究者ほぼ全員が担当する大気環境や地盤環境といった分野での成果についてそれぞれ発表する.これとともにカンボジア側メンバーからの発表や,アンコール遺跡区域やシェムリアプ州で活動する同州政府各部局からの発表も加わる予定である. 引き続いて翌3月18日午後にプノンペンのカンボジア工科大学セミナールームにて成果報告セミナーとして開催する.このセミナーには研究代表者とカンボジア側代表者,および各研究部門からそれぞれ1名が出席し,それぞれの分野で得られた成果についてとりまとめて発表する.セミナーそのものに加え,その後のセミナー出席者らとの質疑応答をとおし,ERDACによって得られた成果をより具体的にカンボジア社会へ還元できるものと期待している.

海外学術調査隊「Team ERDAC」について

 海外学術調査「カンボジアのアンコール遺跡区域における環境破壊・環境汚染の現状と影響評価(Environment Research Development in Angkor, Cambodia,略称:ERDAC)」は,その名称のとおりカンボジアのアンコール遺跡区域の環境汚染や環境破壊の現状を正確に把握し,その影響を定量的に評価したうえでこれらを軽減あるいは撲滅する基礎資料を作成することを目的に設立された.

 環境汚染問題の深刻化は発展途上国には普遍的に存在する現象といえる.しかし,長期間にわたって内戦あるいは半鎖国の状態にあったカンボジアでは,環境汚染が政府や一般市民の理解のないまま短期間のうちに深刻化していったという特殊性がうかがえる.1993年の国民総選挙の成功でカンボジアはようやく安定した.それと同時に同国が有する鉱産物や木材などの天然資源の開発,そして内戦で破壊されたインフラの再整備を目的とした外国資本の怒濤の流入が始まった.一方,アンコール遺跡観光に同国を訪れる外国人観光客の数は1994年以降年々増加しており,それにともなって同国の観光産業は計画性のないまま急激な成長を遂げている.このような長年にわたる内戦と国際社会からの孤立,その後の急激な社会の発展や人口の増加,そしてそれにともなう乱開発によって環境汚染や自然破壊などの問題が同国各地でいっきに噴出してきた.

 アンコール遺跡観光の基地であるシェムリアプ市,なかでもアンコール遺跡区域内やその周辺でこのような環境汚染や自然破壊の進行が顕著である.大型ホテルや大規模レストランなどが急増しつづける観光客数に対応して次々と建設され,それとともに道路の新設・拡張工事やシェムリアプ川の護岸工事などのインフラ整備が進められている.その一方,無秩序で際限のない開発行為のため同州がかつて誇っていた豊かな森林は減少の一歩をたどっている.林立するホテルやレストランなどからの汚水による河川水の汚染や遺跡を訪れる車輌などからの排気ガスによる大気汚染にも深刻なものがある.  このような環境汚染や自然破壊を放置することは,カンボジアの財政を支えるアンコール遺跡群の観光資源としての根幹にかかわる重大な事態であり,河川水や大気の汚染は遺跡区域内や同州に暮らす住民の健康問題はもちろんのこと,遺跡そのものの損壊にもつながりうる憂慮すべき問題である.さらにシェムリアプ川の汚染や森林の減少による流出土砂の増大は,ユネスコの生物圏保護区(Biosphere Reserves)に指定されるほどの生物多様性を誇るトンレサップ湖やメコン河の生態系の破壊にも直結しかねない.

 年間200万人を突破する勢いの観光客の増加やそれにともなう開発によって発生するさらなる自然破壊や環境汚染を考えると,この問題は緊急に解決すべきものといえる.しかし,このような状況にありながら,アンコール遺跡区域全域にわたって森林・水・大気といった住民や遺跡をとりまくすべての自然を対象とする調査研究はこれまで存在しなかった.環境汚染の調査についても,アンコール遺跡整備機構水資源部門やEMSB(後述)などの不定期で予察的な調査結果があるのみであった.

 研究代表者の塚脇を中心とする研究グループは,カンボジアの自然環境の核ともいうべきトンレサップ湖を対象にこれまでの2度の海外学術調査を成功させてきた.1992年以来の予察的研究をふまえ,1996年から2002年にかけて実施した「カンボジアのトンレサップ湖における環境変遷史(略称:Tonle Sap 96 & Tonle Sap 21),後援:日本証券奨学財団・科学研究費補助金」では,トンレサップ湖の成立から現在にいたるまでの環境変遷史を明らかにするとともにこの湖の将来変化の予測に成功した.これを受けた調査「カンボジアのトンレサップ湖における生物多様性維持機構の評価(略称:EMSB & EMSB-u32),後援:科学研究費補助金・UNESCO-MAB/IHP Japan Fund-in-trust」では,同湖の学術上の希少性ならびに社会的な重要性の根幹ともいうべき淡水生物多様性の維持機構を,動物学,植物動態学,水文学,そして地質・地形学の四分野にわたって包括的に評価することができた.これらの成果は同湖ならびにその周辺地域における今後の調査研究の基礎となることはもちろんのこと,これらの地域における環境保全や開発,教育啓蒙活動などのさまざまな分野に活用されるものといえる.

 そこで,トンレサップ湖におけるこれまでの調査研究の成果を適用しつつ,アンコール遺跡区域で喫緊の事態となりつつある環境汚染や環境破壊の現状を理解するとともにそれらへの対応策の検討を目的に,海外学術調査チーム「ERDAC」は代表者の塚脇を中心に日本の大学や研究機関に所属する研究者によって2006年3月に設立された.その後,2006年6月にアンコール遺跡整備機構(以後:APSARA)とチームとの間に調査研究協力協定が締結され,同機構水・森林部門(現水環境部門:代表者 Hang Peou)との密接な連携のもとに大気・水・森林の3分野における調査を開始するとともに,ERDACは日本側(研究者チーム)とカンボジア側(APSARA職員)との合同調査チームとなった.さらに,2007年からは科学研究費補助金の支援によってその調査範囲や調査項目などをさらに拡大し,活動を継続しているEMSBと連携しながら現在に至っている.


調査活動のようす

アンコールワットでの大気環境観測

シェムリアプ川の河床堆積物調査
アンコール遺跡区域の地盤調査

トンレサップ湖の水質調査

アンコールワットでの魚類相調査
アンコール遺跡区域での植生調査

連絡先:塚脇真二(金沢大学環日本海域環境研究センター):tukawaki@t.kanazawa-u.ac.jp

資 料
  • 海外学術調査隊「Team ERDAC」について(PDF)
  • 国際シンポジウム(3/17:シェムリアプ)および国際研究セミナー(3/18:プノンペン)の開催案内(英語PDF)(クメール語PDF)
  • 国際シンポジウム(3/17:シェムリアプ)および国際研究セミナー(3/18:プノンペン)の登録状(Word)
  • 国際シンポジウムのプログラム(PDF)
  • 国際シンポジウムの講演要旨集(英語PDF)