トンレサップ湖調査2000−02

2000年8月26日〜9月12日

(8:9月6日)


9月6日(水)シェムリアプ

 今日の早朝便で他の方々はプノンペンへ帰る.ホテル出発予定時刻は午前6時.そのため午前5時に起床しすぐに朝食にした.他のみなさんもすぐにレストランに現れる.遠藤さんは顔色はよくないもののプノンペンまでの移動には差し支えないようす.しかし奥村さんの姿がなかなか見えない.心配になってドアをノックしてみたらパジャマ姿の同氏が現れた.

 午前6時10分にホテルを出発し20分ほどで空港に到着した.みなさんのチェックインを見とどけてから緑くんとホテルに戻り,調査機材を積み込んですぐに湖へ出発した.9名の調査隊がいきなりふたりになってしまったためなんとなく寂しくなる.午前7時45分に船着き場へ到着しすぐに出航する.測線2のさらに北に測線3を設定した.

 測線3の開始点に向かって船はこれまでとは違う進路をとった.水上集落内をとおらずにいきなり西北西へ舳先が向けられる.この進路だと浸水林がよく観察できた.

 

 

 今朝も湖面は凪いでいる.うねりも風もともにわずか.湖にはたくさんの漁船の姿があった.測線3の開始点となる測点24では比較的緻密な暗灰色の泥が回収された.貝殻片はまったく見あたらない.

 

 

 クロム山が遠ざかっていく.湖北部ほぼ中央の測点30では表層に赤褐色泥層が確認された.生きたままの巻貝が一個体見つかる.

 

 

 対岸が近づいてくる.測点32では植物遺骸や木片をたくさん含んだ暗灰色泥が回収される.すぐ近くにある陸地の影響だろう.

 

 

 そして対岸の浸水林域まであと数100mと迫った測点33.投入した採泥器が湖底にある何かにひっかかってしまった.ゆっくりと流される船にまかせての引き上げを試みる.ようやくあがってきた採泥器は一本の木の枝をしっかりとはさんでいた.もう一度採泥を試みてみたが回収されたのは小枝のみ.ここは乾季に陸化するところに違いない.ここで測線3は終了となった.

 

 

 船着き場へと引き返す途中でエビ漁の船とであう.葉っぱのついた小枝を束にして湖底に沈め,それを数日後に回収して葉っぱの間に住み込んだエビを捕るという漁法だ.緑くんが興味深そうに見ていた.

 

 

 この日で湖での観測は最後になる.水温計の設置などでお世話になった養魚場へ立ち寄った.今日も「緑の道」を一本買い求める.帰り際に銀細工のネズミをひとついただいた.緑くんはあのテナガザルとの別れが名残惜しそう.いつまでも離れようとしない.クロム山がだんだんと近づきそして舟は接岸した.船のドライバーに代金を支払い,ついでに11月調査の予定を告げておく.20ドルのチップがうれしそうだった.

 

 

 途中にあるモノロムレストランで昼食をとってホテルへ戻った.そして午後からは石澤先生からの依頼もあって,アンコールワット西参道の修復個所に出かけていった.1994年に敷石をはがして西参道の内部構造を調べたことがある.そのときの実績をかわれて現在の修復作業でむき出しになった個所についての意見が聞きたいとのこと.上智大学の三輪さんに案内いただいたが,調査したのはもう6年前のことなので記憶は不確かなものでしかない.だんだんと思い出してはくるもののたいしたことは言えなかった.調査を終えていたため黒いロングスカートに着替えていた緑くんが観光客や作業員の注目を集めていた.

 

 

 アンコールワットから貯水池の西バライへ向かった.ここは9月1日にも調べたところだが,トンレサップの湖底堆積物に含まれる砂質堆積物と比較するためまとまった量の砂質堆積物が必要だった.西バライの湖岸に砂が分布することはわかっていたのでこの採集は簡単な作業だ.また,砂の分布するあたりが地元の人々の水浴場にもなっている.

 ワットから真西へのびる道路をワゴン車が走る.しかし,あいにくの工事のため道路には一面にこぶし大の角礫がしきつめられていた.右に左にと車が揺れる.鋭い音が車の下から聞こえてくる.いつパンクしてもおかしくない状況だったが,ドライバーのセン君の注意深い運転のおかげで西バライへ何事もなく到着した.水の中に少しばかり入って湖底堆積物をすくい取る.近くで泳いでいた地元の少女たちが手伝ってくれる.緑くんが彼女たちの人気の的になる.試料の採集が終わったところで急に風が吹き始めた.空がみるみる暗くなり,バライの湖面には白波が立ち始めた.スコールの前触れに急いで機材をたたみこみ,手伝ってくれた子供たちにお礼のココナツを渡して車内に逃げ込んだ.

 

 

 土砂降りの中をホテルに戻ってみたら,ロビーにはカンボジア環境省トンレサップ計画担当者のヌォン・ボンヘアさんが待っていた.会議のためにシェムリアプに到着したばかりだという.同僚のイン・ソクホムさんが一緒だった.夕食をともにする約束をとりつけ,部屋に戻ってシャワーを浴び服を着替える.そして緑くんともどもおいしいピザのあるコンチネンタル・カフェに案内した.3枚のピザとビールとを注文する.ビールをのみながらの夕食に会話も弾む.カンボジアの水害が話題になった.ボンヘアさんはプノンペン郊外の自宅が床下浸水したという.一方,ソクホムさんは自宅のある村全体が水没したとか.洪水に馴れている彼らにとっても今年の増水は異常なものらしい.初めてピザを食べたというソクホムさんはこれがずいぶん気に入ったようだ.残った数切れのピザを大事そうに包んでもらっていた.

 夕食を終えて午後9時にホテルへ戻った.そしてサンプルの整理にとりかかるものの睡魔におそわれすぐに就寝.