トンレサップ湖調査TS21−1
2000年11月18日〜12月5日
(その6:11月24日)
11月24日(金):シェムリアプ
今日がトンレサップ湖での調査初日となる.午後6時に起床して階下のカフェに降りたところそこにソタムが待っていた.元来がきまじめな彼だがやけに深刻な顔で近づいてくる.プノンペンでクーデターが勃発したらしい(→記事).この情報には驚きもしたが困ってしまった.湖に出かけるかどうかの判断に迫られる.カフェではそんなニュースも知らないらしい観光客が朝食を楽しんでいる.
朝食をとりながらソタムやダラスと今日の予定を話し合った.そこに谷川さんがやってきた.彼もクーデターの話は知らなかったらしい.すぐにプノンペンの報道関係者に連絡をとってくれる.銃撃戦は確かにあったらしいが詳細は不明とのこと.ホテルのフロントには在カンボジア米国大使館から「カンボジア滞在中の全米国民はホテルから出ないように」との緊急ファックスが入ってきた.しかし,プノンペンからのきな臭いニュースに比べてシェムリアプは平和そのものだった.銃撃戦はあったもののシェムリアプまでその影響がおよぶことはなさそうだ.そこで予定どおりの調査を行うことにして午前7時すぎにホテルを出発した.
いつもどおりのシェムリアプ市内を抜けて午前7時45分に船着き場へ到着し,すぐに採泥器の準備にとりかかった.表層採泥器に長さを確認しながらロープを取り付ける.
そこへ携帯電話をしまいながらソタムがやってきた.さらに深刻な顔をしている.プノンペンの小学校に通う彼のお嬢ちゃんが行方不明になったという.彼は心配でいてもたってもいられないようすだ.飛行機代を手渡してすぐにプノンペンへ戻るよう彼に指示する.ソタムの不在は調査の大きな痛手だがそんなことを言ってはいられない.車に乗り込む彼を見送って予定どおりの午前8時に出航した.
主力採泥器となる延長型のフレーガー式柱状採泥器.96年の調査のときに作ったもの.水質などの測定用機器はバスケットに入っている.電気伝導度計,水温計をかねた溶存酸素計,pH計,そして音響式の小型測深器.
この日は表層採泥船も同じ観測点へ向かう.ソタムのかわりにサンバースが乗り込んだ.
風も波もなく静かなトンレサップ湖だった.漁をする小舟がちらほらと見える.GPSで位置を確認しながら船を進めてもらう.
午前9時20分に最初の測点に到着した.GPSと測深器とで位置や水深を確認し底質をみるためにまず表層採泥を開始する.この調査のために準備したダイキ製のDIK-190A型表層採泥器.
手際よく採泥器を沈める加藤さん.ふるいをもった神谷さんがすぐうしろで待ちかまえる.ここでは予想どおりに灰褐色の泥が回収された.表層部には1センチほどの赤褐色で軟弱な泥の層がある.
引き続いて神谷さん愛用のソリネットでのドレッジ採泥.こちら側の柱状採泥船ではまず水質を測り,それが終わってから柱状採泥器を投入する.2番目の測点では採泥器のウエイト部分にまで泥が付いていた.ここまで湖底に刺さったことは間違いない.
表層採泥船と併走しながら作業を続ける.この日は予定の3測点すべての採泥に成功した.
青空が広がる絶好の観測日和だ.エビ漁をする小舟とときおりすれ違う.
正午ちょうどに観測を終えて船着き場へと引き返した.プノンクロムがだんだんと近づいてくる.この山はすばらしい目印だ.かつてのクメール人が湖をとおってアンコールにやってくるときや,チャンパ軍がアンコールを目指したときにもきっと役だったことだろう.
浸水域に入ると湖面はさらに静かになる.船に弱い尾田さんがまったく船酔いしないほど湖面はおだやかだった.
船着き場が近づいてくるにつれてプノンペンへ返したソタムのことが気になってきた.責任感の強い彼のことだからチームと家庭との板挟みになっていることだろう.そんなことを思いながらだんだんと近づく船着き場を見ると,そこには笑って手を振る彼の姿があった.お嬢ちゃんは叔母さんの家に逃げ込んで無事だったとのこと.シェムリアプ空港へ向かう途中でその連絡が入ったため船着き場に戻って待っていたということだ.これには一同が胸をなで下ろした.
全員そろって気分よく市内へ戻った.そして今日も午後2時からの遅い昼食をセントラルカフェのピザで済ませた.残ったピザは小沢君のおみやげになる.このころから彼の大食ぶりはチーム内で有名になっていた.毎回の食事のたびに,料理の残った皿は彼の前へと誰かが運んでくれる.ホテルへ戻ったときには午後3時を回っていた.
部屋で一休みしたあと市場へ出かけた.シェムリアプ川沿いの道をのんびりと歩く.
まず手がかりの悪かった採泥器用のロープを太くて滑りにくいものに買い換える.立派なクレモナロープが13mで10ドルだった.それから試料を入れるためのバスケットを買い足し飲み物を買ってアセイの店に立ち寄った.
ホテルに戻ったらそこでは2長老がくつろいでいた.
午後4時半から明日の調査準備にとりかかる.柱状採泥器用のアクリルパイプを切断しヤスリをかけておく.
ホテルのバスルームでは神谷さんとソタムが採ったばかりの表層試料を洗っていた.ハス口がはずれるバイヨンホテルのシャワーは泥を洗うには最適だ.
午後5時からカフェで2回目のミーティング.今日の成果や明日の予定を話し合う.そして夕食はそのままバイヨンホテルのカフェでとった.このホテルの料理もなかなかうまいが,料理を運ぶ要領が少々悪いようだ.96年からのつきあいとなるソタムとサンバース.
カンボジア側新メンバーのシムとナリン.日本側は神谷さんを挟んで新たに加わった尾田さんと小沢君.
食後もカフェに残って今日のノートを清書しておいた.
午後10時に部屋へ戻り,シャワーを浴びてビールを一本空ける.今夜は軽いバイヨンビールにした.そしてその空き缶でまたコアキャッチャーを3つ作り,明日の測点を確認して午後11時に就寝.
Camera: Pentax MZ-3 and MX, and Fuji Caldia Mini Tiara Lense: SMC Pentax-FA Zoom 28-80mm f.3.5-5.6 and SMC Pentax-M 40mm f.2.8 and Super EBC Fujinon 28mm f.3.5 Film: Fujicolour Reala Ace, Pro 400 and Superia 800- Scanner: Epson FS-1200WINS