地学実験の記録
2002年度後期(その3:11月15日〜11月29日)

11月15日:野外調査実習(金沢市上辰巳町)

 朝から小雨模様だったがこの日を逃すと野外実習の機会はもう2度となさそうだった.そこで雨をおして犀川上流となる上辰巳へ出かけていった.気温は摂氏8度とそう低くはないが小雨のせいか体感温度はかなり低い.現地へ到着後,受講生にはまず調査地点の確認をやってもらう.


 受講生たちに先んじてTAのふたりと川に入ってみたら,川の水は切れるように冷たかった.濡れ落ち葉に足をすべらせながら受講生たちがすぐにやってくる.

 崖沿いの通路を確認しにいったTAの陰地君と4年の細田君が戻ってきた.受講生たちが通れるような状況ではないという.先へ進むことをあきらめ川に入らずにすむぎりぎりの場所で地層の観察に入ってもらった.

 この露頭では日本海拡大後最初の浅海性堆積物となる砂子坂層が観察される.軽石や炭化木片が散在する凝灰質砂岩からおもに構成され,大型有孔虫や二枚貝などの暖流系の化石を含んでいる.石灰質ノジュールもあちこちで観察される.頭上でひさし状に張り出したノジュール層がある程度はさえぎってくれるものの,そぼ降る雨に濡れながらの実習となった.

 灰白色の砂岩に淡い緑色を帯びた部分が見つかる.硬いノジュールを一心に掘り込んでいる受講生もいる.露頭を前にこの地層の形成過程や地質学上の意味についてある程度の説明をしておいた.

 続いて崖から降りてもう少し足場のよい露頭前へと移動した.ここでこの地層に含まれる化石やその意味について加藤さんから説明があった. 

 加藤さんが説明をやっているあいだ中,雨に濡れながらTAたちと待つことになった.寒さがだんだんましてくる.川の水量はいつになく多かった.ふだんならばくるぶしまでしか水のないところが膝までの深さに変わっている.河床の露頭で観察される正断層群もこれでは見ることすらできなかった.

 いったん道路にあがりそれから川が大きく曲がるところにある大露頭を眺めにいった.崖の最下部が最近の長雨のせいか崩落していた.いつもならば植物化石を採集する露頭にも行ってみたが,腰までたっする激流のために対岸へと渡ることすらできなかった.

 研究室で崖渡りのアトラクションをする露頭も足場付近まで水没していた.これほどの増水をここで見るのは初めてだ.

 小雨は降り止まないし増水で露頭に近づくこともできないため,午後3時すぎには実習を終わりにして大学に戻った.そして現場では話せなかったところを実験室内で補って本日の実験は終了とした.


11月22日:地質図学実習(地学学生実験室)

 この日は東京出張だったため,共同担当者の加藤さんならびにTAのふたりが地質図学実習を実施してくれた.


11月15日:野外調査実習(金沢市小二又町)

 11月も末とあって野外は無理だろうと思っていた.しかし思わぬ好天に朝から恵まれ,予定どおりに小二又の実習にでかけた.今期の地学実験では最後の野外実習になる. 官用車と大学バスとで金沢市清水の金腐川に到着する.ここから川に沿って下流へと歩くことにした.枯れたツタをかきわけながら土手をまず下る.護岸工事がなされた川ののり面が最初の観察地点だ.ここには大桑層の青灰色細粒砂岩が露出している.


 降り続いた雨で地層の汚れがきれいに洗い流されていた.砂岩の表面には生痕がはっきりと浮き上がっている.貝化石の密集層も暗灰色の砂岩から白く浮き上がってみえていた.

 足場をきりながら壁を登っていく受講生もいる.かなり登ったところで自分のいる位置に気づいたようだった.

 ここではキリダマシなど大桑層を代表する貝化石をみることができる.壁面には研究室の学生たちがかつて登攀の練習をした痕が幾筋もの溝になって残っている.

 道路に上がって下流へと歩いていった.その途中で地辷り地形の見分け方や,地辷りとは何かについて説明しておく.ここでは典型的な例をふたつ見ることができる.

 道路を歩くTAや受講生たち車で追い越して次の観察地点に行った.11月末にしては暖かい日だった.

 そして藪をかき分けセメント壁をつたい降りて金腐川沿いの露頭に到着した.二番目の観察地点だ.たいした水の量ではなかったがこの季節に水に入るのには抵抗があったようだ.川が削り込んだこの露頭には軽石を多量に含む粗粒の凝灰岩が露出している.残念ながらこの日は落ち葉に被われてみえなかったが,ここでは大桑層と高窪層との不整合をみることもできる.

 思ったよりも水は暖かかった.しかし受講生たちは観察を終えると露頭から早々に引き上げてきた.

 川をちょっと下って凝灰岩の下にある地層を観察する.青灰色をした泥岩だ.小さな軽石の粒が少し含まれている.これまでの3回の野外実習でみてきた地層のどれと似ているか,などを考えてもらう.

 さらに下流へ向かおうとしたが,水位が思ったよりも高かったため途中で引き返すことにした.

 そしてセメント壁をよじ登り道路を横断して次の観察地点へ向かった.3番目の地点は道路からちょっと入った小さな沢の中にある.

 TAたちの指導で足場を確保しながら沢を上流へと向かった.

 壁面すべてに大桑層の泥質砂岩が露出している.ときおり白い貝化石も見つかる.実習の最初にみた地層とこれが同じものであることを自分の目で確認してもらい,さらにこの地層が先ほど見たばかりの凝灰岩よりも新しいものであることをしっかりと認識してもらう.

 観察を終えて道路へ引き返す.受講生たちはこのちょっとスリリングな沢歩きを楽しんでいたようだ.

 大学バスまでぶらぶら歩いてこの日の実習はおしまいとなった.

  • Camera: Casio G.Bros. GV-10
  • Lens: Casio Lens 4.6mm f.2.8